日本野鳥の会東京の幹事。
若者向けの探鳥会「ヤング探鳥会」や「月例高尾山探鳥会」、鳥見をしながら俳句をつくる「詠んでたのしむ探鳥会」などで探鳥会リーダーを担当し、野鳥やバードウォッチングの魅力を伝えている。また、定期的にフィールドでの調査活動も行なっている。
〈日本野鳥の会東京からのお知らせ〉
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防振双眼鏡の現在地
鳥見においての防振双眼鏡は、ここ5年ほどのラインナップ増加に伴い普及が進んでいる印象だ。探鳥会で防振双眼鏡を所持する参加者、または購入を検討する相談を受けることも増えてきている。とはいえ従来の防振双眼鏡は、船上からの鳥見など、あくまで「特定のシーンをカバーするもの」であり、オールマイティに対応できるものがあるかと訊かれると言葉に詰まるところがあった。これはラインナップに「高倍率・重い・嵩張る」ものが多かったことも関係しているだろう。
“VCスマート 10×30 Cellarto WP”の強み
その点で、今回ケンコートキナーから発売された”VCスマート 10×30 Cellarto WP”は「小型・軽量・ちょうど良い倍率10倍」で、オールマイティに活躍できる新鋭と言える。
まず「小型・軽量」が大切なのは、「持ち出す頻度に直結する」からだ。さまざまなシーンで活躍するためには、気兼ねなくフィールドに持ち出す気になれる道具であることが大切である。せっかく良い道具を持つのであれば、使う機会が多いに越したことはない。
“VCスマート 10×30 Cellarto WP”がどれほど小型かというと、まず、初めてケースに収納された状態を見た時に、この中に防振双眼鏡が入っているとは信じられなかったほどだ。
※左がVcスマート 右はアバンター8×32
実際に手に取ってみても手中にスッと収まる大きさで、グリップできる箇所も複数用意されているから、女性や手が小さい人にも持ちやすいだろう。そして重さはなんと533g。同じ口径の防振でない双眼鏡と同水準か、それより軽い場合もあるという驚きの数値だ。この軽さと防振機能があれば、片手持ちで鳥見をするという芸当も容易に行えそうで、新しい鳥見スタイルが生まれてくるかもしれない、とかいろいろと妄想も膨らんでくる。
フィールドでの使用感
さて、実際に”VCスマート 10×30 Cellarto WP”を河原に持ち出し、野鳥を覗いてみると、視界は野鳥の姿をピタッと捉えて吸い付くようで、まるで「手ブレだけではなく周りの雑音も補正されているのでは」と錯覚しそうなほど没入感がある。しばらくセグロセキレイがエサを探す姿を観察していると、突然それまでの動きを止めて、一瞬上空を見上げる仕草を見せた。 その動きに気づいて上空に目をやると、サギの群れが飛んでいた。セグロセキレイは、空にかぶさるように通過するサギの群れの迫力に一瞬身構えたのだ。
“VCスマート 10×30 Cellarto WP”は、野鳥の飛翔時の姿 ―これこそ鳥の最も魅力的な瞬間とも言える― を捉えることにも長けていて、羽ばたき方から嘴、脚の先など体の部分まで、細かくチェックすることができる。15羽ほどのダイサギの群れの中に、脚が黄色いコサギが11羽混ざっていることをすぐに見つけることができた。1羽をよく確認するときにはしっかり止まり、他の個体をチェックする際のパンには素早く対応してくれる。この挙動も新機能の2段階手ぶれ補正によるもので、どのような仕組みで切り替わるのかは理解していないが、鳥見を快適にサポートしてくれる機能だ。
防振双眼鏡が気づかせてくれる鳥見の面白さ
さて、鳥見でありがちな失敗として、「野鳥に近づきすぎてしまう」というのがある。「野鳥を見つけた」時に、よく姿を見たいがために近づきすぎてしまい、結果的に野鳥に警戒心を与えてしまうというものだ。
この場合、すぐに飛ばれてしまうか、緊張して固まった姿しか見ることができずに終わるのが関の山。鳥の姿を見ることができても、「野鳥を観察した」とはほど遠い結末となる。
私はこの現象に対しても、防振双眼鏡は有効に作用すると考えていて、だからこそ、近所での何気ない鳥見にも防振双眼鏡を使ってみてほしいと思っている。
防振性能があることにより、ある程度の距離からでも野鳥の姿をしっかりと捕捉できるから、不用意に距離を詰める必要がない。こちらが動かなければ、野鳥にも必要以上の警戒心を抱かせずに、野鳥はその場に留まり、次第に自然な仕草を見せてくれるだろう。
野鳥へのストレスも最小限、
観察者側もより自然な野鳥の姿を楽しめる
鳥にも人にもやさしい鳥見において理想のスタイルのひとつである。
そうして「この鳥の嘴や脚の形はどうなっているんだろう」「この鳥はどんなものを食べているんだろう」といった視点で鳥を見ることができるようになれば、普段見慣れているスズメやカラス、ハトなどにも知らなかった一面を次々と見つけることができる。
これが”VCスマート 10×30 Cellarto WP”が鳥見の面白さを深掘りしてくれると書いた理由だ。
野鳥の自然なしぐさを観察できれば鳥見の面白さは広がる。
安心して観察できる機能・機構も充実
そして、そうした観察を支える機能が網羅されていることも紹介したい。まず電池の持ちは、単三電池1本で約28時間持続可能。つまり1日鳥見をしている間は、迷わず「常にオン」でOKだ。面倒くさがりの私にとっては大変ありがたい。
完全防水設計は、水辺での観察や、突然の雨にも強く、波しぶきのかかりやすい船上での観察や、天気の変わりやすい亜高山帯での鳥見などにも安心して挑戦できる。
身近な野鳥の行動観察から、コアな鳥見の世界まで、これひとつでカバーできる。すでに私の鳥見スタイルに欠かせない一本である。
防振双眼鏡を使ったオススメの鳥見の1つとして、冬のカモウォッチングをおすすめしたい。1か所にたいてい複数の種類がいて、隠れもしないので種類ごとの見た目の違いをじっくり楽しめる。
もちろん船からの観察など防振双眼鏡ならではの条件化でもしっかり活躍する。オオミズバギドリの大海原を悠々と飛ぶ姿に見惚れる。