ZX製造現場レポート|萩原和幸
いきなりだが、私は保護フィルター装着派である。
フィルターには大きく分けて二種類が存在する。一つはPLフィルターやNDフィルターに代表される、意図する作画に対して、特殊な効果を得るためのフィルター。もう一つは、レンズの前面(=前玉)を守るためのフィルターだ。
そのフィルターを保護フィルターという。
保護フィルターを装着して何ら特殊な効果を得られるわけではない。
しかし、保護フィルターを装着することで、前玉をぶつけたりモノが当たったりして、大事なレンズ、特に前玉が傷になることを防ぐことができる。また埃や水滴なのどの汚れの付着も防ぐことができる。
私はポートレート撮影が中心。だからロケ地が海辺や砂浜のことが多く、砂や潮風を浴びることも。そうした撮影環境下、レンズ前玉を傷や汚れのリスクから回避できる面から、保護フィルターを装着している。それに私は撮影中、レンズキャップを外しっぱなし。保護フィルターは欠かせないというわけだ。
さて、フィルターといえば、気になるのは画質への影響。
薄いとはいえ、レンズの前にガラスを一枚被せるのだから、何らかの影響を懸念する気持ちは分からなくはない。私自身も実は全く不安がないわけではない。高画素化が進む昨今、特にそうだ。でもそれよりもレンズに傷がつくリスクを回避したい気持ちが上回っているのが正直なところ。
進むカメラの高画素化に対応すべくレンズが対応してきたように、フィルターもコーティングやガラス素材で対処してきた。でもさらに高画素化は進むであろうし、なにより高画素機=高額=プロユーザー機という図式が崩れ、エントリー機までが高画素になり、かつ、今や当たり前の機能となった動画も4K搭載と、カメラを気軽に楽しむ方々ですら高画素を謳うようになったわけで、画質にはこれまで以上に厳しい目が向けられている。当然、保護フィルターにも高精度化が望まれるようになったのだ。
そのユーザーの厳しい目に応えるべく登場したのが、Kenko・ZXプロテクターだ。これまでのKenkoのフィルターノウハウや製作技術の粋を結集して生み出された、最高グレードフィルターだ。ガラス素材やコーティングは勿論、平面性にまでこだわった点は特筆ものだ。

今回、最高グレードフィルター『ZXプロテクター』の製造工程を、この目で確かめるべく、工場まで足を運んだ。
KenkoTokina本社のある東京・中野から、KenkoTokina広報・宣伝課田原氏の運転で、関越自動車道を突き進む!目指すは新潟県胎内市にある『株式会社ケンコーオプティクス 新潟工場』だ。
出発から約5時間、株式会社ケンコーオプティクス新潟工場に到着。

株式会社ケンコーオプティクス新潟工場では、今回の目的である『ZXプロテクター』の他、『Zeta』や『PRO1D』など、主に高グレードラインのフィルターを製造している。
では中に入ってみることに。

工場長にお話を伺った後、早速工場の中へと案内していただく。
従来、フィルターはリングやバネを使ってガラスを押さえる構造で作られているものがほとんど。実際、この工場でもその構造で製造されているのを拝見した。もっともこの工法、熟練工が組み立てていたがすごい技術だなあ…と感心。ササっとやってのけてしまうのだが、まさに熟練の技だ。
横道に逸れてしまったが、ZX。
ZXは従来の工法とは異なり、新開発の『フローティングフレームシステム』という技術で製造されている。
従来の工法で製造されたフィルターは、これまで画像にはさほど影響がないにせよ、組み立ての工程で、平面性が崩れてしまっていた。
しつこいようだが、これまで画像への影響は微小なものだった。
しかし、今や3000万画素越えから4000万画素5000万画素となり、動画も4K8K。
そうなると、これまでの“さほど”とはいかず、より高性能・高精度なフィルターが必須となる。そこで考え出されたのが先出の『フローティングフレームシステム』というわけだ。

『フローティングフレームシステム』は特殊弾性緩衝剤を採用し、高い面精度を確保しようとするもの。それによりレンズ本来の持つ描写性能を損なうことなく装着できるのだ。
枠は外枠と内枠になっている。

前枠と後枠との間にガラスが挟まり、特殊弾性緩衝剤でガラスが浮いたように固定される。
コーティングされたガラスと枠とで組み立てる工程に進む。
ガラスのコバ(周辺)に墨塗りをして、ガラス周辺からの反射を防ぐ。
枠とガラスが揃うと、熟練工による組み立てになる。
こちらで組み立てられている。いわばZXの心臓部。
完全に隔離されており、拝見するこちらにも静かな緊張感が伝わってくる。
お二人の熟練工のうち、お一人の方の作業をじっくりと見学させてもらった。

まずは枠のチェック。
ここで枠の外観検査を全数行う。 細かなキズや埃や汚れなどがないかを見ていく。

続いてガラスのチェック。
傷はもちろんの事、埃や汚れをしっくりとチェックしていく。気なる箇所は専用器具で丁寧に取り除いていく。

そして前枠と後枠にガラスを挟む。
特殊弾性緩衝剤をつける工程。熟練工が一枚一枚機械の上に乗せて操作。

ゆっくりと特殊弾性緩衝剤が塗られていく。
特殊弾性緩衝剤こそ、従来の工程とは異なる肝の部分だ。
一枚一枚、すべて手作業の、非常に手間のかかった組み立てだ。また工程ごとに細やかなチェックが入る。製品への精度そのものの認識の高さが伺える。
組み立ての工程の次は平面性検査に移動し、組み立て時に平面性検査が行われるのだが、さらに完成時に改めて行われる。

ゆっくり慎重に検査されていたお姿が印象的。

これでいよいよ完成となる。
ここまで、どれだけのチェックが行われたか、とにかく全ての工程が手作業で、手間の連続。まさに“手の込んだ”一品なのが『ZXプロテクター』なのだ。
完成したZXプロテクターは、やはり手で一枚ずつケースに入れられてゆく。その際も埃や傷などをチェックする。
ケースに入れる際もチェックは可能な限り続く。

全てのチェックが終了し、ケースに収められたZX達。
こうして完成品となり、やっと出荷されていくことになるのだ。
新しい『フローティングフレームシステム』もそうだが、ZXプロテクターの製造には熟練した人たちの、幾重もの手によって繊細に製造されていることに、深い感銘を受けた。
ちなみにKenkoからは『Zeta Quint』という高グレードのフィルターが存在する。現に『Zeta Quint』の方が高額だ。しかしプロテクターとしての性能は、今回の『ZXプロテクター』の方が上であり、現に最上位グレードとして位置付けている。
最上位グレードでありながら、金額を抑えての発売…ということだ。
そこには、せっかくの高価なレンズなのだから、画質を損なうことなく安心して多くの方々に保護フィルターを使って欲しい、という気概が感じられる。
技術や手間、コストの面を考えると、正直驚きを隠せない『ZXプロテクター』。保護フィルターをつけることで、傷やホコリなどのリスクを回避できることは承知しつつも、画質への影響を否めなかったユーザーは、もうそんな心配は無用に思える。ましてや価格はリーズナブル。手持ちのレンズ、すべて付け替えたくなるだろう。
現在は49mm~82mmまでのラインナップ。今後は37mm~86mmや95mmまで発売が予定されているそうだ。86mmはすぐに欲しい!
高価なレンズほど、プロテクター装着で、前玉の傷やホコリから守ってもらえるメリットは大きいはず。ZXプロテクターは撥水・撥油コーティングされているので、メンテナンスの面でも安心だ。
先頭に戻る。
私は保護フィルター装着派だ。
ZXプロテクターの登場で、ますます胸を張って保護フィルター装着派!と言えよう。また半信半疑のユーザー、ぜひ手に取られてみよ。これまでにない撮影への安心感が待っているはずだ。

萩原和幸
静岡大学人文学部法学科および東京工芸大学写真技術科卒業。 写真家・故今井友一氏に師事、独立後K&S PHOTOGRAPH∞ 設立。 広告撮影、雑誌でのタレント・アイドルのグラビア撮影、 カメラ専門誌での撮影・執筆など、幅広く活動中。 日本写真家協会(JPS)会員、静岡デザイン専門学校講師。