Tokinaの新シリーズatx-mシリーズから、FUJIFILM Xマウント用のレンズ2本が市場に投入された。その一本がこの「atx-m 33mm F1.4 X」である。
atx-mシリーズは、メーカー発表通り「ユーザーが創作行為を掻き立てられる」レンズラインアップを目指しており、本レンズも非常に独特の味わいを感じるレンズで純正レンズとは違った味わいを持つレンズだ。その味わいを一言でいうなれば、カリカリしすぎない「やわらかい描写のレンズ」という印象である。同時に発売されたatx-m 23mm F1.4 Xもそうなのだが、特にダークトーンの再現が独特で、FUJIFILM 自慢の様々な「フィルムシミュレーション」を使いながら撮影すると本レンズが持つ独特な画作りが楽しめる。
筆者は本レンズをカメラにセットしフィルムシミュレーション「クラシッククローム」や「クラシックネガ」で街スナップを行うことで、本レンズの味わいを堪能することができた。また、33㎜ということは、35㎜換算49.5㎜でほぼ標準ど真ん中のレンズと言える。筆者自身もそうだったのだが、50㎜前後の明るい単焦点レンズは最初に手にする単焦点レンズであり、また写真やレンズのAtoZを知るためのトレーニングレンズという意味合いもあるレンズだ。本レンズは上述のように「やわらかな描写」であることから、扱いやすいレンズのため初めての単焦点レンズとして手に取ることも良いだろう。
さらに、気になる価格だが非常に財布にやさしい価格になっている。
上述を踏まえて、本レンズの3つのトピックスを上げていくとするなら
- FUJIFILM の持つ様々な「フィルムシミュレーション」を駆使しながら撮影すると本レンズが持つ独特な画作りが楽しめる
- 「柔らかい描写」であることからトレーニングレンズとしても良い
- 価格が抑えられていることから気軽に手に取ることができる
事がいえるだろう。
続いては手短に、レンズスペックと操作性及び手触りの話をしていこう。レンズの口径はΦ52mm、全長は72mm、重量は285gと、昨今F1.4の単焦点レンズは大型化している中非常にコンパクトな作りになっている。ピントリングの感触は、軽すぎず重すぎず細かな調節のしやすいトルク感になっており使いやすいトルク感であった。レンズ根本に配置されている絞りリングは、無段階で動く「ノッチが無い絞りリング」で細かな深度の調節を行いたい方には便利な作りになっている。撮影時EVFやリアモニターには、きちんと現在の絞りリングの位置は表示されるので安心していただきたい。また、絞りリングを右端いっぱい「A」まで回すと、カメラ側のダイヤルで絞りの調節ができようになっている。レンズ全体金属部品を多用して作られておりしっかりとした作りになっている。使い込んでいくとこちらでも「いい味」が出そうなレンズだ。また、レンズとカメラの通信ができているため、カメラからの補正も効いているようだ。
以下、作例を見ながら解説していこう。
*)今回は、特殊な状況だったため撮影中は常にマスクを着用し、安全に配慮しての撮影を心がけることとした。人物撮影などで必要な場合のみ、被写体となる方にマスクを外していただいているが、筆者はマスク着用のまま撮影を行っている。
ボケ味

カメラ X-T4 1/8000 F1.4 ISO200 フィルムシミュレーションVelvia(ヴィヴィッド)
F値の明るい単焦点レンズといえば気になるのはボケ味である。解放F1.4はご覧の通り、段階が細かいなめらかで軽いボケ味を見せる。
違った画でも確認しておこう。

カメラ X-T4 1/250 F1.4 ISO800 フィルムシミュレーションPROVIA(スタンダード)
眠り姿が愛らしい子猫の画だ。撮影に協力していただいたのは、道後温泉にある「猫カフェ 日なたの窓」様である。非常に清潔感のある店内には、たくさんの猫が穏やかな時間を過ごしていた。保護猫も預かっている猫カフェで、どの子も元気が良く愛らしい子ばかりであった。猫好きの筆者としては、仕事を忘れそうになりながらの撮影となったがしっかりと作例を撮影することとした。もちろんマスクはしたままでの撮影である。この画も開放F1.4で撮影している。フォーカスを合わせた眼の部分の毛はしっかり解像されているが、奥に行くにつれなめらかにボケていることが分かる。atx-m 23㎜F1.4 Xの解説でも敢えて同じ子猫を撮影した画を載せてあるので両レンズの違いに興味にある方はそちらも見ていただければ幸いである。
人物撮影

カメラ X-T4 1/60 F1.4 ISO1600 フィルムシミュレーションクラシッククローム

カメラ X-T4 1/80 F1.6 ISO4000 フィルムシミュレーションPROVIA(スタンダード)
モデル 青山千紘
2枚ともに全て地明かりでの撮影である。
一枚目は、軽くストロボを焚くかどうか迷ったのだが、ダークトーンの再現が良いことからストロボは焚かずモデルの青山さんの眼力を信じシャッターを切った。また、このような暗い状況でもAFは迷わずにきちんと眼にピントを合わせにいった。
二枚目は、日本家屋の並ぶ路地裏で撮影したものだ。撮影データをご覧いただければお分かりだと思うのだが、この場所は非常に暗い場所でISOを4000まで上げて撮影している。上述の通り、ダークトーンの再現が良いことからデニムの暗部や奥の日本家屋も黒つぶれせず再現されている。F値が1.6となっているが、これは筆者がF1.4とF1.6の合間ギリギリを狙って撮影したものでデータの数値上はF1.6と記録されている。このギリギリが使えることが、シームレス絞りリングの良いところで、少しだけ深度を稼ぎたいがしっかりF1.6まで入ってしまうと画の印象が変わってしまう場合など筆者は絞りリングで調整することを選んでいる。
人物スナップ

カメラ X-T4 1/15 F2 ISO3200 フィルムシミュレーションPROVIA(スタンダード)
撮影中観光を楽しむご一家をお見かけしお願いして撮影させていただいた。この一枚も地明かりのみでの撮影、明るいレンズだからこそできることである。F値は2となっているが、こちらも絞りリングでF2とF2.2の間を使って撮影したものだ。背景はよりぼかしたいが、後ろに並んでいる弟さんの顔はあまりぼかしたくない。また、シャッタースピードが1/15秒、しっかりF2.2になってしまうとさらにシャッタースピードも落ちてしまうため被写体ブレの心配も増してくる。少し待ってもらってマニュアルで設定すればよいかもしれないが、お願いして撮影させていただいているうえお子様の撮影はスピード勝負。もっともスピーディーに行える手段、「絞りリングで微調整」し撮影することとした。
*)撮影に伴い手前のお兄さんはマスクを外していただいたが、奥の弟さんはそのままマスクを着けたままで撮影を行った。当然、筆者もマスクを装着している状態での撮影である。

カメラ X-T4 1/200 F1.4 ISO160 フィルムシミュレーションVelvia(ヴィヴィッド)
撮影現場でとても爽やかなご夫婦をお見かけし撮影をお願いした。
今度は光あふれる中での撮影である、夕陽の美しいなか爽やかなご夫婦の印象的なシーンだ。こうした色鮮やか且つ明るい中での撮影でも、本レンズは十分に実力を発揮してくれる。また、逆光下のなかでもAFはしっかりと奥様の眼を捉えており、笑顔の良い一瞬を逃さなかった。
AFの動き

カメラ X-T4 1/500 F7.1 ISO400 フィルムシミュレーションVelvia(ヴィヴィッド) AF-Cシングル
ジャンプの瞬間から着地までシャッターを切りAFの動きを確認した。これはフラットスキムボードという競技で、今回は愛媛地区ライダー 丹下 慎さんに撮影のお手伝いを願った。被写体との距離が短く、且つ結構なスピードで向かってくるためAFの動きが遅いレンズだとAFが間に合わないことがあるが、ご覧のように被写体を外すことなくしっかりと捉え続けている。
続いてより速い被写体で見てみよう

カメラ X-T4 1/1250 F5.6 ISO160 PROVIAフィルムシミュレーション(スタンダード)
今度は飛行機の着陸でAF-Cの動きを確認していこう。
作例は、飛行機が最も近づいた状態の一枚である。連射は41枚でほんのわずかに外したものが41枚中3枚のみ。しかし、これだけ近い状態でなお且つAFのスピードが求められる望遠系のレンズではない35㎜換算50㎜F1.4、さらに飛行機のスピードを考えれば十分な実力であるといえる。
動画も撮影しているので合わせてそちらも見ていただければ幸いである。
テーブルフォト

カメラ FUJIFILM X-T4 1/1600 F1.4 ISO400 フィルムシミュレーションASTIA(ソフト)
こうしたテーブルフォトも35㎜フルサイズ換算50㎜の出番が多いシーンだ。今回は撮影のため特別に少し小さめのピッツァを焼いてもらい撮影を行った。小さめにしていただいた理由は、お盆の木目で近接のボケ味が見えてくることから特別に小さいものを焼いていただいた。いつもはこのお盆めいっぱいの大きなピッツァがチーズの焼けるいい匂と共に現れる。チーズのとろりとした質感と生地のカリッとした質感両方がしっかりと再現されている。お盆の木目に注目するとインフォーカスの部分とアウトフォーカスの部分の変化はゆるやかで上述のように「やわらかい描写のレンズ」ということが窺える。
スナップ

カメラ FUJIFILM X-T4 1/6000 F1.4 ISO200 フィルムシミュレーションクラシックネガ
ここで解像も見ておこう。
まずは解放F1.4の画である。F値の明るい単焦点レンズであれば、解放では周辺光量の減少がしばしばおこる。本レンズはカメラと導通しているため、カメラ側からの補正も受けられていると予測されるが、ご覧いただいた通りこのくらいであれば特段気になるものでもない。また、こうした曇り空で撮影した場合、軸上色収差によって山の稜線部やお寺の天辺部にカラーフリンジが現れることがあるが目立った色の縁取りは見えない。

カメラ FUJIFILM X-T4 1/200 F8 ISO200 フィルムシミュレーションクラシックネガ
本レンズの解像ピークはF5.6 1/3辺りであろうと筆者は考えるが、広めの画を撮影するならF8程度まで絞り被写界深度を深くして撮影することがベターであろうと判断したためF8の画も見ておきたい。ピントを合わせたお寺の瓦から、奥の病院の名前、さらに奥の山の頂上付近の建物までしっかりと解像できていることが分かる。

カメラ FUJIFILM X-T4 1/350 F2.8 ISO160 フィルムシミュレーションクラシックネガ

カメラ FUJIFILM X-T4 1/640 F2 ISO160 フィルムシミュレーションクラシックネガ

カメラ FUJIFILM X-T4 1/250 F1.4 ISO160 フィルムシミュレーションクラシックネガ
35㎜フルサイズ換算50㎜の出番はこうした路地裏スナップでも出番が回ってくる。筆者はこの時本レンズとフィルムシミュレーションクラシックネガとの組み合わせでノックアウトされた。路地と坂と猫の街、尾道でスナップ撮影を行ったのだが、本レンズとフィルムシミュレーションクラシックネガとの組み合わせは、こうしたなんてことの無い日常の一瞬を、何とも言えない情緒のある画に仕上げてくれる。これはカメラのおかげもあるが、レンズの持つ味わいも画作りに関係してくるため、この組み合わせならではの画といえるであろう。また、時間の都合上一気に駆け抜けるように撮影したのだが、軽く小さなレンズであったため軽快に撮り歩くことができた。
手振れ補正
最後にテストカメラに使用したX-T4のカメラ内手振れ補正が本レンズでもきちんと作動するかを確認しておこう。

カメラ FUJIFILM X-T4 2秒 F8 ISO640 フィルムシミュレーションPROVIA(スタンダード) 補正ON

カメラ FUJIFILM X-T4 2秒 F8 ISO640 フィルムシミュレーションPROVIA(スタンダード) 補正OFF
どういった状態で撮影したのかの詳しい説明は、こちらのHowto特集ページで記載してあるのでご興味のある方はそちらを読んでいただければ幸いであるが、2秒をしっかりと補正できている。カメラ本体の手振れ補正機能をしっかりと使えているようだ。しかし、2秒という秒数を使っての撮影、且つ構図構成の自由度を考えれば筆者としては三脚の使用をお勧めしたい。

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