Tokina atx-mシリーズ(因みにatx-mの「m」はmotif(動機・創作行為)を表しており、「ユーザーが創作行為を掻き立てられる」ことを意味してる)からFUJIFILM Xマウント用単焦点レンズ2本が発売された。その1本がこのatx-m 23mm F1.4 Xだ。
APS-Cサイズで23㎜のレンズといえば35㎜換算で35㎜相当のレンズとなり、スナップ、風景、ポートレートなどに良く用いられるレンズで使い勝手の良い焦点距離のレンズと言えるだろう。
さっそく、レンズの撮り味の話であるが、結論を先に述べてしまうと、本レンズと同時に発売されたatx-m 33mm F1.4 Xと共通の撮り味を筆者は感じる。カリカリしていない「やさしい撮り味」のレンズでダークトーンの再現が上手なレンズだと言えるだろう。これは、テスト撮影しながら思ったことなのであるが、FUJIFILMユーザーの方はフィルムシミュレーションを様々変更しながら撮影される方も多いと思う。このフイルムを基に作られたカラーモード、フィルムシミュレーションを場面ごとに変更される方や自身が持つ「画のアイディアやイメージ」に合わせフィルムシミュレーションを積極的に変更し撮影される方は、「このレンズ独特の撮り味をより楽しめる」のではないかと思う。
まずは操作性の面から見ていこう。ピントリングは適度な重さのあるピントリングで筆者は個人的に好きなトルク感だ。レンズ根本に配置された絞りリングは無段階の絞りリングになっており、細かな調整が可能になっている。また、同時に発売されたatx-m 33mm F1.4 Xと共通で絞りリングを右いっぱいに回すとAモードとなりカメラ右に配置されているダイアルでの絞り変更が可能になっている。フィルター系は52Φ、重さは276g、長さは72㎜とテストカメラで使ったX-T4との組み合わせは非常にバランスの良いものであった。尚、カメラとレンズは通信されておりカメラ側からの補正も受けられている。
以下、撮り味の解説はいつものように写真を見ながら解説していこう。
ボケ味
カメラ FUJIFILM X-T4 F1.4 1/750秒 ISO200フィルムシミュレーション クラシックネガ
まずは、ボケ味から確認していこう。上述の通りやさしい撮り味のボケといえる。同様ダークトーンの再現が良く、黒くつぶれがちな「格子に使われている木の質感」が良く再現されている。また、締めるところはしっかりと締まっておりダークトーンの再現の良さが窺える。
カメラ FUJIFILM X-T4 F1.4 1/180秒 ISO1250 フィルムシミュレーション ASTIA(アスティア)
もう一枚見ておこう。かわいい猫ちゃんを撮影した。ピントを合わせた眼はしっかりと解像し、そこからなだらかにボケていくことがわかる。そもそもソフト設定のASTIAで撮影しているため柔らかい画にはなるのだが、画全体を眺めてみるとこのレンズ独特の画で非常にやわらかい味わいを強く感じる。
撮影協力 猫カフェ日なたの窓
ポートレート
カメラ FUJIFILM X-T4 F1.6 1/180秒 ISO5000 フィルムシミュレーション PRO Neg
背後の様子を入れ撮影したものだが、この一枚でもダークトーンの再現の良さが出ている。撮影時、弱くだけでもストロボを焚くべきかどうか迷ったのだが、このレンズはダークトーンの再現が良いため敢えて地明かりのみでシャッターを切った。モデルさんが着ている衣装は黒、地明かりのみで撮影すると黒つぶれを起こしてしまうことも多い。しかし、本レンズは地明かりの弱い光であっても衣装のステッチをしっかりと再現している。また、モデルさんが手を置いた竹の手すり、背後の木の幹、さらに日本家屋もつぶれることなくなだらかに再現している。
モデル 青山千紘
カメラ FUJIFILM X-T4 F1.4 1/50秒 ISO2500 フィルムシミュレーション クラシッククローム
もう一枚見てみよう。こちらは少し寄った画である。ピントを合わせた眼は黒眼がしっかりと解像しており、そこからなだらかにボケていく。画全体を見てみると、こちらはフィルムシミュレーションはクラシッククロームではあるが、上述の猫の画でも感じたことと同様のやわらかい画という印象だ。
モデル 青山千紘
風景
カメラ FUJIFILM X-T4 F8 1/200秒 ISO200 フィルムシミュレーションPROVIA(スタンダード)
ここで同時に解像を確認していこう。解像のピークはF5.6 2/3辺りと考える。解放から一段絞ったF2辺りでエッジが立ちあがりF2.8で安定する。被写界深度が必要な広い画の風景写真などで使うのであれば、筆者としてはF8~F10辺りを使って撮影を行いたい。それ以上絞って使用するのであれば、カメラの設定にある「点像復元」をONにして撮影する事をお勧めしたい。
その他の風景写真
カメラ FUJIFILM X-T4 F8 1/80秒 ISO400 フィルムシミュレーション Velvia(ビビッド)
カメラ FUJIFILM X-T4 F8 1/80秒 ISO400 フィルムシミュレーションVelvia(ビビッド)
カメラ FUJIFILM X-T4 F8 2.5秒 ISO800 フィルムシミュレーションVelvia(ビビッド)
いずれの画もF8で撮影したものだが色乗りも良くシャープに再現されている。
スナップ
カメラ FUJIFILM X-T4 F2.8 1/250秒 ISO800 フィルムシミュレーション PROVIA(スタンダード)
カメラ FUJIFILM X-T4 F1.4 1/350秒 ISO1250 フィルムシミュレーション ASTIA(ソフト)
撮影協力 猫カフェ日なたの窓
カメラ FUJIFILM X-T4 F1.8 1/100秒 ISO1250 フィルムシミュレーション Velvia(ビビッド)
カメラ FUJIFILM X-T4 F2 1/50秒 ISO1600 フィルムシミュレーションVelvia(ビビッド)
筆者は、23㎜即ち35㎜フルサイズ換算35㎜のレンズでスナップを行う際、35㎜の特徴である「広角の終わり標準の入り口」という二つの側面を使うため、出来るだけアクティブに動きながら撮影するよう心掛けている。全体を真っすぐにとらえ標準然とした画で撮影、出来るだけ近寄った画で撮影、広角らしくパースを効かせた画で撮影と、どんどん動きながら撮影をしていく。
このとき、レンズに気になる歪曲収差があると歪みが気になってしまい、なかなか構図が決まらず撮影のリズムが崩れてしまう。
しかしatx-m 23mm F1.4 Xは、歪曲収差が少ないためテンポよくサクサクと撮影ができた。また、明るいレンズであるため夜の撮影であっても、シャッタスピードが速くできるため作例のような歩く人の入った画でも、人が大きくブレずに撮影することができる。
カメラ FUJIFILM X-T4 F4 1/1500秒 ISO200 フィルムシミュレーション クラシックネガ
カメラ FUJIFILM X-T4 F1.4 1/2000秒 ISO160 フィルムシミュレーション クラシックネガ
カメラ FUJIFILM X-T4 F1.4 1/60秒 ISO500 フィルムシミュレーション クラシックネガ
カメラ FUJIFILM X-T4 F1.4 1/125秒 ISO500 フィルムシミュレーション クラシックネガ
atx-m 23mm F1.4 Xが持つダークトーンの再現の良さは、こうした趣のある建物やその屋内のスナップでも独特な撮り味を見せる。筆者は、この「趣」のある酒蔵を見たとき、落ち着いた重みのある空気感で撮影するため少しアンダー目で撮影する事ことを頭で描いた。まずは、酒蔵全体を標準然として撮影、その後上左のような屋内の光と影を探し暗部を主役にしダークトーンの階調を楽しみながら撮影、atx-m 23mm F1.4 Xはしっかり締まる「黒」が出せるので「光が灯る場所」を見つけて撮影したり、広角らしいパースを効かせた画で「趣」を出しながら撮影していく。atx-m 23mm F1.4 Xは、締めるところはしっかり黒が締まるが、なだらかなダークトーンの再現をしてくれるのでこうした「影」を楽しむことが出来るレンズだといえるだろう。
AFのスピード
フラットスキムボードを楽しむ皆さんにご協力を頂きAFの動きを見ることにした。
セッティングはAF-Cシングル、向かって右側のライダー愛媛地区ライダー 丹下 慎さんにフォーカスを合わせるようにセッティングしている。
写真左の香川地区ライダー 木戸 諒大さんと共に、同じライン同じスピードで筆者をギリギリ挟むように(乗り手が上手くなければなかなか難しい!)通過してもらうコースを滑走していただいた。
助走をつけてスピードを上げてもらいボードに乗った辺りからシャッターを切りギリギリまで撮り続けること16枚の連射。
1枚1枚拡大して確認したところピント外れは0枚と優秀な追従性能を見せた。
撮影協力:DB SKIM BOARD JAPAN所属愛媛地区ライダー(丹下 慎)
DB SKIM BOARD JAPAN所属香川地区ライダー(木戸 諒大)
公式HP:http://dbskimboardsjapan.com/
飛行機の着陸で追従性能を見ていこう、こちらのAFセッティングもAF-Cシングル連射は37枚の連射となった。かなり速いスピードで通り過ぎていくため、筆者としては最も悪条件(逆光と速い被写体、さらにカメラを振る状態)が揃う中「最も飛行機が近づいた辺りでピントの動きが怪しくなるのでは?」と予想したのだが、37枚中ピントが外れたのは1枚のみ、場所も着陸前の最後から3枚目であった。さらに、ピントも大きく外れたのではなく「少し甘い」程度の外れ方であった。尚、AFチェックは動画でも撮影しているので、そちらでAFの駆動音や動きもチェックしていただきたい。
手振れ補正
今回テストカメラで使ったX-T4はボディ以内手ぶれ補正機能が備わっている。atx-m 23mm F1.4 Xはカメラと同通しいるため手ぶれ補正機能の恩恵が受けられるようになっているのだが、どの程度の補正が受けられるのかを確認することとした。
一般に手振れが起きてしまうとされるシャッタースピードは1/35㎜フルサイズ換算の焦点距離」といわれている。atx-m 23mm F1.4 Xの焦点距離は23㎜、すなわち35㎜フルサイズ換算35㎜となり、手振れ補正が必要とされるシャッタースピードは1/35秒となる。X-T4の手振れ補正機能は最大で6.5段と謳っている。では計算してみよう1段補正で(正確には1/17.5秒だが便宜上1/16秒にさせていただく) 1/16秒、2段補正で 1/8秒、3段補正で 1/4秒、4段補正で 1/2秒、5段補正で 1秒、6段補正で 2秒、6.5段補正で3秒となる。
結果を先にお話してしまうが、atx-m 23mm F1.4 Xは手振れ補正の恩恵を受けしっかり6.5段分を補正していた。撮影は地面に体育座りしながら脇を締め、肺の空気を抜き息を止めそっとシャッターを切る。検証のために行ってはいるが、筆者としては撮影の自由度が高い三脚をお勧めしたい。しかし、筆者の経験上日本国内の歴史的建造物や、またいつか訪れるであろうヨーロッパの歴史的建造物(特に教会)などは三脚使用不可の場所が多い。またそうした場所は、薄暗いことが多いためシャッタースピードは長くなりがちである。当然撮影に使うレンズはシャッタースピードを稼ぐため明るめのレンズになるのだが、細部までしっかり撮影しようとするならある程度絞って撮影しなければならない。そうなると、手振れ補正がしっかり効くことが大事になってくるのである。言い換えればatx-m 23mm F1.4 Xのような明るい単焦点レンズとしっかり効く手振れ補正は旅先で強い味方になってくれる。
例えば、この写真は「(仮)特集35㎜と50㎜の違いって何?」という筆者が執筆したHowto記事で使用したものだ。少し引いてレンズを傾けずに撮影すれば「標準然」とした画になり、近づいてアオリ構図にしレンズを傾ければ広角らしい押し出し感のある画が撮影できる。(50㎜との比較も行っているので是非「(仮)特集35㎜と50㎜の違いって何?」をご覧いただければ幸いである)
こうした2面性を使っていけば、写真のような夕暮れの1シーンも「標準然」として撮したり、低い位置からアオリ構図でレンズに角度をつけてダイナミックな印象の画にしたりすることもできるのである。
atx-m 23mm F1.4 Xは、独特の味わいを持ち、ダークトーンの再現も良いレンズである。また、明るい単焦点レンズは暗いところの撮影も得意であるため時間を選ばず撮影が可能だ。レンズレンタルも行っているようなので、ぜひ一度お試しいただき、寄って引いてアクティブに動き、標準然とした画とパースを感じる広角の画の2面性を楽しんでいただければ幸いである。
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