Tokina atx-m 56㎜F1.4 Xは、atx-mシリーズXマウントレンズ3本目となるレンズである。先だって発売された同シリーズXマウントの23㎜(35㎜換算35㎜)、33㎜(35㎜換算50㎜)にこの56㎜(35㎜換算で85㎜)を加えることで市場で人気のある焦点距離のレンズを網羅したことになる。
さて、56㎜(35㎜換算85㎜)といえば主にポートレートに用いられることの多いレンズではあるが、今回は「実践の小河」らしく、ポートレートに限らず56㎜の使いどころについて様々な被写体で機能的側面など解説をしていきたい。また、56㎜(35㎜換算85㎜)の特性と言えば、何といっても「ボケの量と質」という点が浮かんでくる。さらに、56㎜は中望遠ということで圧縮効果が働き背景の見え方も変わってくる。こうした56㎜の特性を考慮に入れてどう画作りをしていくか?そうした点も解説していきたい。
概要
まずは概要から解説していこう。
外寸6.5cm×7.2cm、フィルターサイズは52Φ、重さは315gと非常に軽量コンパクトだ。外装は金属で出来ており、質感も良くピントリングは大きめに作られている。この大きく作られているピントリングは手に馴染む大きさで回した感じもスムーズに動く。トルク感も軽すぎず重すぎず使いやすいトルク感だ。絞り羽根は電磁絞りになっており9枚で構成されている。絞りリングはレンズの付け根に用意されており、最小絞りはF1.4、最大絞りはF16で時計回りに回していくと1/3段階づつ動く仕組みになっている。AFはステッピングモーターを使用しており正確で非常に速い動きを見せる。また、atx-m 56mm F1.4 Xは、カメラとの通信ができており顔認証AFも使用できるためポートレート撮影では重宝しそうだ。本レンズは、レンズ本体に手ブレ補正機能は搭載していないものの、上述の通りカメラとの通信ができているため、カメラ内手ブレ補正(最大6.5段分)に対応しており56㎜(35㎜換算85㎜)という手ブレの発生が割と早めな焦点距離ではあるが安心して撮影に臨めそうだ。
ではさっそく作例を見ながら解説していこう。
56㎜という焦点距離
カメラ:FUJIFILM X-T4 F1.4 1/1400秒 ISO400
56mm(35mm換算85mm)といえば、ポートレートに用いられるレンズとしてイメージされることが多い。標準といわれる33㎜(35㎜換算50㎜)よりも一層多くなったボケ量を駆使して画作りを楽しんだり、敢えて広い画で被写体と圧縮された背景を見せて撮影したりとポートレート撮影でも、56㎜(35㎜換算85㎜)は様々な使い方ができる。
カメラ:FUJIFILM X-T4 F1.4 1/2500秒 ISO160
56㎜(35㎜換算85㎜)は上述のように様々な使い方ができるのだが、言い換えればそれはスナップやその他の被写体でも同様にボケの量を調節したり、背景の圧縮効果を使ったりして撮影することが出来るという事である。ボケを駆使しながら街の空気感を出したり、ゆるやかな圧縮効果を使い「街の印象的なワンシーン」を切っていったりと56㎜(35㎜換算85㎜)は様々な用途がある。
カメラ:FUJIFILM X-T4 F2 1/160秒 ISO160
atx-m 23mm atx-m 33mm atx-m 56mmを使い焦点距離による違いを比べる
筆者は、56mmのレンズを使って撮影する場合23mm、33mmのレンズを同時に携えで撮影することが多い。
それならば同様の焦点距離が存在するズームレンズの方が便利なのでは?と思われる方もいらっしゃるかもしれない。しかし、単焦点レンズにはズームレンズには無い描写の良さ(際立つシャープさやボケ味の良さ)があり、より撮影者の頭に浮かんだイメージに近い画を具現化してくれる。また、被写体の大きさやイメージによってレンズを換えていくという「レンズ交換式カメラ本来の使い方」を楽しめるのも単焦点レンズならではの楽しみ方でもある。
では、この焦点距離による違いとはいったいどういった違いがあるのであろうか?
百聞は一見に如かず、atx-mシリーズ23㎜33㎜56㎜の3本を使い筆者がロケで使っている車両で違いを比べてみることとした。23㎜は以前ケンコー・トキナー公式YouTube(https://www.youtube.com/user/KenkoTokinaSlik/videos)で解説させていただいたように「広角と標準の2つの顔」があり広角の側面を使って撮影するとご覧のように「少し車体が伸びて見え背景も遠く感じる」。33㎜は同様にケンコー・トキナー公式YouTubeで解説させていただいたように「人間の視覚に近い唯一無二の焦点距離」として正確な寸法で再現されている。56㎜は、23㎜や33㎜と見比べるとボンネット部分が短くなりボディがギュッと凝縮され背景も迫ってくるように見える。これが望遠領域の「圧縮効果」である。ご覧いただいたように「56㎜はゆるやかな圧縮効果」があり、それをいかに使って画作りをするか?という事が56㎜攻略のポイントとなる。また、上述のようにボケの量も多くなることから「どのくらいボケを使うか?」といった点や、被写体との距離感、画作りにおける「間(空間)」の置き方など23㎜、33㎜とは違った画作りの面白さがある焦点距離といえるだろう。
さて、焦点距離による違いはあるものの、このatx-mシリーズには共通した独特の撮り味があり、その撮り味が撮影者へイメージのアイディアを促してくれる。先に発売されたXマウント23mm、33mm同様この56mmも「シャドウ部の再現性が良くやわらかい描写のレンズ」で独特の味わいを持っている。この独特な味わいを使いながら、様々なフィルムシミュレーションやカメラに搭載されている機能を駆使しシャッタ-を切ることで「独自性の高い一枚」が撮影できるレンズとなっている。
56㎜の街歩きスナップ
カメラ:FUJIFILM X-T4 F1.4 1/6000秒 ISO250
カメラ:FUJIFILM X-T4 F1.4 1/800秒 ISO160
カメラ:FUJIFILM X-T4 F2.8 1/1500秒 ISO400
カメラ:FUJIFILM X-T4 F2 1/240秒 ISO800
56㎜(35㎜換算85㎜)は、上述の通りゆるやかな圧縮効果が得られるためこうした広い街のワンシーンも、不自然ではない適度な圧縮効果で背景を引き込むことでギュッと凝縮した画にすることが出来るため街を切り取っていくスナップにも向いている。
カメラ:FUJIFILM X-T4 F1.4 1/3800秒 ISO160
カメラ:FUJIFILM X-T4 F1.4 1/240秒 ISO320
カメラ:FUJIFILM X-T4 F1.4 1/160秒 ISO640
カメラ:FUJIFILM X-T4 F1.4 1/85秒 ISO640
撮影協力: 飛騨自慢鬼殺し https://www.onikorosi.com/
ゆるやかな圧縮効果を意識しながら「寄って、引いて、ボケの量を被写体との距離や絞りで調節しながら画にしていく」そうした一連の行動が56㎜の街スナップ楽しむ一つの方法だと筆者は考える。atx-m 56mm F1.4 Xはそうした楽しさを存分に味わわせてくれる一本で、作例の趣のある街のスナップを様々なフィルムシミュレーションを駆使しながら「独自性の高い一枚」として再現してくれる。
カメラ:FUJIFILM X-T4 F4 1/10秒 ISO1600
カメラ:FUJIFILM X-T4 F1.4 1/50秒 ISO1600
カメラ:FUJIFILM X-T4 F1.4 1/80秒 ISO1600
カメラ:FUJIFILM X-T4 F1.4 1/45秒 ISO1600
解放F1.4という明るさは撮る時間を選ばず、夜の街並みのスナップでもきちんと撮影することが出来る。また、カメラのボディ内手ブレ補正が効いているので三脚を使わずに、そして軽量コンパクトなボディであるがゆえに軽快に撮影して歩くことが出来る。
カメラ:FUJIFILM X-T4 F1.4 1/4400秒 ISO160 カメラ内機能:アドヴァンスドフォト ポイントカラー赤を残す
またFUJIFILM のX-シリーズにはアドヴァンスドフォトという撮影モードがありこうした画も56㎜のギュッと凝縮した画で撮影すると面白い画になる。
手ブレ補正
一般に手ブレが起きてしまうシャッタースピードは1/焦点距離と言われている。これは、フィルムの頃から言われていることでフルサイズでの焦点距離のことを指している。本レンズの場合焦点距離は56㎜であるが、フルサイズ(35㎜換算)でいえば56㎜は(FUJIFILM APS-Cは×1.5倍)85㎜相当となり1/85秒で手ブレが発生しやすくなると言われている。上述の通り本レンズに手ブレ補正は搭載されていないが、テストカメラで使用したFUJIFILM X-T4はボディ内手ブレ補正か搭載されている。メーカーの発表によると純正の56㎜のレンズで最大6.5段分の手ブレを補正することが可能とされている。スナップのところでも記したが、解放F1.4と明るいレンズであることにより時間を選ばずに撮影することができるのだが、きちんと手ブレ補正が効いているのかを試してみることとした。
では6.5段分補正とは何秒なのか?計算してみよう。
1/85秒の1段分補正は1/42.5秒、便宜上厳しく1/40秒としよう。2段分補正で1/20秒、3段分補正で1/10秒、4段分補正で1/5秒、5段分補正で1/2.5秒便宜上厳しく1/2秒としよう。6段分補正で1秒、6.5段分補正で1.5秒となる。85㎜相当の1.5秒は広角領域の1.5秒とは訳が違う。焦点距離が長くなる分ブレやすくなり、少しの動きでも画に反映されてしまうため秒の単位をきちんと止めることはなかなか難しい。またレンズとカメラがきちんと会話できていないとブレの入力に対しての反応が悪くなってしまう可能性もあるため純正レンズとは違った結果になることも予想される。さて、どこまで手ブレ補正が効くであろうか?
一段分づつお見せしたいところだがここは一気に行ってしまおう。まずは6段分補正に近い1.3秒。
ご覧の通りしっかりブレが止まっている。
続いて6.5段分補正の1.5秒、体育座りで撮影したがここもしっかり止まっている。
これはレンズとカメラの会話が上手くいっている証拠であろう。本当に便利な世の中になったと思う。しかし、ここまでの長い秒数であれば、筆者は三脚の使用をお勧めしたい。
AFのスピード
まずはAFの動きを動画で見ていただこう。
ゆっくりとした動きのローカル線である。
カメラ:FUJIFILM X-T4 F2 1/1700秒 ISO160
この程度のスピードであれば、多くのレンズが難なく追従していくだろう。注目点はその追従性能ではなくAFの音の静かさである。ゆっくりとした被写体の場合、AF-Cで撮影する場合常にAFが動くことで結構気になる音がレンズからしてしまうことがある。しかし、atx-m 56mm F1.4 Xは非常に静かにAFが動くため気になる音がしない。
スチールの方でも確認しておこう。絞りはF2と一段絞った状態でAFを追従させて撮影したが非常に静かに素早く動いていた。
次に早い被写体で動きを見てみよう。
カメラ:FUJIFILM X-T4 F4 1/1800秒 ISO200
被写体は新幹線、筆者はこうしたかなり早い被写体の撮影をする場合いつもはAF-C「シングル」で撮影するのだが、AFがどこまで信用できるのか?を試すため今回はAFを敢えてカメラ任せのAF-C「ワイド/トラッキング」で撮影することとした。結果だが、しっかりと新幹線のライトにピントが来ている。AFの速度であるが、非常に素早く正確に動くと言えるだろう。
こちらも動画で試しているのでそちらも参考にしていただければ幸いである。
カメラ:FUJIFILM X-T4 F1.4 1/640秒 ISO3200
さらにトリッキーな動きをする被写体を日没直後の厳しい撮影条件で試してみた。こうしたシーンにおいてもAFはしっかりと追従していることが分かる。しかも絞りはF1.4で撮影している。AFが良い仕事をしてくれていることが分かる一枚だ。atx-m 56mm F1.4 Xは「カメラとの会話」がきちんとできているためこうしたAFの素早い動きと同時にボディ内ブレ補正を動かす必要のある場合でもしっかりと撮影することが出来る。
ボケ味
カメラ:FUJIFILM X-T4 F1.6 1/300秒 ISO160
カメラ:FUJIFILM X-T4 F1.4 1/350秒 ISO160
atx-m 56㎜F1.4 Xは、最短撮影距離が60cmと単焦点56㎜のレンズの中では短い部類に入るため筆者の体感的な56㎜(35㎜換算85㎜)の距離よりも割と近くで撮影することが出来る印象だ。ボケ味としては、段差を感じない「なだらかで軽めのボケ味」と言えるだろう。
顔認証/瞳AFを使い撮影
カメラ:FUJIFILM X-T4 F2 1/800秒 ISO400
カメラ:FUJIFILM X-T4 F1.4 1/1900秒 ISO400
顔認証瞳AFを使っての撮影も試みた。日常の中でこうしたシーンを撮影する事も多くあるだろうと思う。atx-m 56mm F1.4 Xは顔認証/瞳AFにも対応しているため表情の変化を撮影する事が非常に楽であった。AFをカメラに任せ56㎜(35㎜換算85㎜)の豊かなボケを使い、瞬間に変わっていく表情に集中して撮影をすることが出来る。
ボケ量が最も多くなる最短撮影距離で撮影。
カメラ:FUJIFILM X-T4 F1.4 1/6秒 ISO400
主被写体は筆者がシリーズで撮影している「ガラスのリンゴ」で撮影する事とした。
最短撮影距離60cmで撮影するとこれだけ一気にボケてくる。
もう一枚別のシーンで見てみよう。
カメラ:FUJIFILM X-T4 F2.8 1/1400秒 ISO160
カメラ:FUJIFILM X-T4 F1.4 1/6000秒 ISO160
カメラ:FUJIFILM X-T4 F1.4 1/8000秒 ISO160
我々スーパーカーブーム世代には涙が出るほどたまらない一台、オーナ様にお願いをして「ロータスヨーロッパ」のエンブレムを最短撮影距離で撮影させていただいた。これまで多くのスーパーカーやクラシックカーを撮影してきた筆者だが、この個体は様々な場所にしっかりと手が入っている個体でオーナー様のクルマへの愛情を感じる一台であった。これだけボケてくれるとエンブレムが一気に浮き上がってくる。ここでフリンジも確認しておこう。エンブレム同様、解放F1.4で撮影した一枚であるが、単焦点レンズしかも中望遠のレンズともなれば解放で撮影するとパープルフリンジが出てしまうことがしばしば起こる。これは完全に抑え込むことが難しく、どの程度発生するのか?という事が重要になってくる。また、こうした「光物」の場合特にパープルフリンジは発生しやすい。atx-m 56mm F1.4 Xも条件が揃えばある程度は発生するのであるが良く抑えていると言っていいだろう。
解像
最後にしっかりと絞り込んだ画も確認しておこう。
カメラ:FUJIFILM X-T4 F8 1/210秒 ISO160
解像のピークはF5.6 2/3もしくはF8辺りであろう。しっかり絞り込んでいくと56㎜の中望遠らしいゆるやかな圧縮効果を感じつつも手前から奥まで細かく解像していることが分かる。
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