AT-X16-28 F2.8 PRO FXは、フルサイズの撮像素子をカバーする超広角ズームレンズだ。
このクラスのレンズは高い性能を目指せば目指すほど、それに伴い価格も高くなるのが通例。しかしAT-X16-28 F2.8 PRO FXは卓越した光学設計でその常識を打ち破り、手が届きやすい価格ながらも、きわめて高い光学性能を実現。画面全体での安定した描写力を確保している。
ズーム比は約1.75倍に設定されており、このクラスのレンズとしてむしろ控えめな数値。しかしズーム比を限定することで、全焦点域においてむらなく性能を発揮。広角ズームレンズながらも、望遠端の描写にまで考慮した設計が行われている。
レンズ構成は13群15枚で、第2レンズに曲率の高いP-MO非球面レンズを配置。一気に広い範囲の被写体を取り込む。またそれに対応したガラスモールド非球面レンズが、第2レンズで取り込んだ光路を補正。ディストーションやコマ収差などを極小に抑え込んでいる。
さらには広角レンズで発生しやすい色収差を、蛍石に近い分散特性をもつSDガラス(FK03)で徹底して補正。輝度差のある被写体のキワにも色のズレが発生しにくい。駆動系には新開発のユニットであるSD-M(Silent Drive -Module)を搭載。DCモーターと減速ギアを一体化して密封構造として静音化。またより分解能の高いGMRセンサー(高精度磁気センサー)を用いることで、より精度の高いフォーカス制御とAFの高速化を同時に実現している。
まさに最新技術の粋を集めた意欲作であり、これまでの広角ズームのイメージを一新する。それではさっそくこのレンズをフィールドに持ち出して、真の実力を試してみるとしよう。
目次 [開く]
作例01
ニコンD3X 絞り優先AE(F8) 1/500秒 -1EV 16mm域 マニュアルWB ISO100
細かい木々の細部までしっかりと解像。また画面端に写っているトーテムポールにも流れはなく、各種の非球面レンズが的確に仕事をこなしている。 16mmでの撮影画角は約107°と広く、画角により発生する遠近感によって、トーテムポールが背後のビルに迫るくらいの大きさに描写されている。大胆に被写体に近寄って撮影をすると、作例のようにダイナミックな表現も可能。超広角レンズならではの面白さを体験できる。
作例02
16mmで撮影をしたが背景のビルの直線部分が歪曲せず、空に向かってまっすぐ立っている。超広角レンズではそのレンズ特性から歪曲収差が比較的起こりやすいが、AT-X16-28 F2.8 PRO FXでは各種の非球面レンズがもつパワーを適切に分散。画質の向上を図るのとともに、歪曲収差を良好に補正して被写体の形をきれいに表現することに長けている。あえて16-28mmで焦点距離を設計した理由のひとつがここにあるのだ。
ニコンD3X 絞り優先AE(F11) 1/250秒 -1.3EV 16mm域 マニュアルWB ISO100
作例03
ニコンD3X 絞り優先AE(F8) 1/125秒 +0.3EV 16mm域 マニュアルWB ISO200
画面端の点光源にも流れはなく、忠実に現場の状況を再現している。また天窓から光が差し込んでいるが窓枠などに色収差は確認できず、光学的に適切な処理が行われていることがわかる。とくに最広角端は画面の周辺部で色のズレが発生しやすく、また色ズレが原因ともなり解像力を悪化させてしまうこともある。AT-X16-28 F2.8 PRO FXではその対策として、蛍石に近い分散特性をもつSDガラス(FK03)を2枚配置。さらにSDガラス(FK01)を同時に用い理想的な画質を形成している。
作例04
東京湾アクアラインを掘削した巨大な建設機械を、青空を背景に捉えてみた。輝度差とコントラストが強い被写体だが、エッジ部分には色収差はなく被写体の特徴をあますことなく伝えている。また背景の空に飛ぶ飛行機までしっかりと解像。線が細いため細かい被写体がつぶれにくい。ヌケの良さと深く濃い色ノリはトキナー独特のもの。どんな撮像素子のカメラと組み合わせてもこの特徴は変わらない。空や海をテーマとする撮影にも強く、印象の強い写真を撮影することができる。
ニコンD3X 絞り優先AE(F9) 1/320秒 16mm域 マニュアルWB ISO100
作例05
ニコンD3X 絞り優先AE(F8)1/640秒 -0.7EV 16mm域 マニュアルWB ISO100
カメラに対して至近のものが大きく写るレンズの性質は、広角レンズほどその傾向が顕著となる。そのため手前の波がより大きく写り迫力が倍増。迫り来る波の状態がリアルに表現できた。また周辺光量も豊富であるため空のトーンを正確に描写。歪曲収差を極小に補正していることから水平線に歪みがなく、どっしりとした落ち着きが感じられる。細かい飛沫や砂粒のディテールまで見て取れ、凄まじいリアリティが感じられる。
作例06
ニコンD3X 絞り優先AE(F2.8)1/2000秒 -0.3EV 20mm域 マニュアルWB ISO100
20mm域で絞り開放で撮影したもの。背景のぼけの美しさは広角ズームレンズとは思えないほど美しい。一般的に広角レンズはぼけにくいと思われているが、開放F値が明るく設計してあれば相応にぼける。しかし作例のようにぼけの“粒”をきれいに揃えるためには、球面収差などの補正を高度に制御し、シャープネスとぼけを共存させなければならない。その点においても理想的な光学設計が施されており、広角ズームレンズの常識を覆している。
作例07
ニコンD3X 絞り優先AE(F8)1/60秒 -0.3EV 16mm域 マニュアルWB ISO100
光の濃淡を見事に再現し、平面的な被写体ながらも立体感溢れる表現を見せている。極めて高いシャープネスがありながら、どこかに柔らかさすら感じる描写だ。シャープ感と柔らかさは互いに相反する要素だが、高い空間周波数を解像できるレンズではこれらを共存させることができる。線の細い被写体を解像していることが視覚的に作用。繊細な描写によって柔らかさが導き出されているわけだ。高画素タイプのデジタルカメラであればあるほど、このレンズの個性が際立つ。
作例08
ニコンD3X 絞り優先AE(F7.1)1/25秒 -1.0EV 16mm域 マニュアルWB ISO800
これほど複雑なディテールの被写体を捉えながらも、全体的に硬い印象になっていない。これは絞り込んでも線が太くならない性質によるもの。まるで細い筆で丁寧に描かれた絵画のように、緻密に全景を写し出している。またカラーバランスも良好で、古びたコンクリートの色合いや、陶板で作られた手すりの質感をも忠実に再現している。画面四隅における安定した画質は、フルサイズ用の広角ズームレンズとは思えないほど秀逸。単焦点レンズと比較してもけっして負けはしない。
作例09
歪みの少なさもさる事ながらトーンの変化が緩やかであり、絶妙なタッチで明暗を表現している。このように繊細な光の変化を表現できているのは、コントラストの設定が的確であるため。解像感を得るために無理にコントラストを引き上げたレンズで撮影したならば、階上の光の変化はおろか、白い部分の大半が飛び気味になってしまっただろう。良いレンズの条件とは高い解像力があるだけでなく、豊かなトーンを持っているかどうかも大切だ。
ニコンD3X 絞り優先AE(F7.1)1/6秒 -0.3EV 16mm域 AWB ISO800
作例10
この写真だけを見て、広角ズームレンズで撮影したと見破ることができる人は、そう多くはないだろう。ぼけの大きさと柔らかさは単焦点並み。開放F値が明るいためファインダー像が見やすく、ピントの位置を的確にコントロールすることができる。広角ズームレンズながら望遠側の画質にも高いものがあり、フルサイズにおける超広角域から準広角域を文字通りカバー。F2.8という明るさを武器に多彩な使い分けができることが、このレンズ最大の特徴といえよう。
ニコンD3X 絞り優先AE(F4)1/60秒 -1.0EV 28mm域 AWB ISO800