現在(2015/10/2)市販されているフルサイズ一眼レフカメラにおいて、最多の画素数と最高の解像力を持つ機種はキヤノン EOS 5DsRである。
その実写性能の高さは賞賛に値するが、高解像力であるがゆえにレンズを選ぶことも事実だ。そこで今回は、トキナーAT-X 24-70 F2.8 PRO FXの実力を探るべく、解像力テストと実写レビューを実施。5,000万画素環境においてレンズに必要な要素について考えてみたい。
使用機材:Canon EOS 5DsR、Tokina AT-X 24-70 F2.8 PRO FX、Digital Photo Professional 4
実写レビューに入る前にAT-X 24-70 F2.8 PRO FXを使い、5,000万画素機への対応力についてテストを行った。
画素数の増加によるレンズの描写力を見るために、EOS 5DsR(5,060万画素)に加えて、EOS 5D MarkⅡ(2,110万画素)でも解像力テスト実施した。画像を見ると画素数の違いがストレートに現れており、細部の描写力に格段の差がある。
その最たる例は50mmで撮影したビルのベランダ。カメラから400m以上離れているが、EOS 5DsRでは手すりの縦線まで解像している。さらにテスト画像を見ると、どの焦点域においてもAT-X 24-70 F2.8 PRO FXは、画素数増加による再現力の向上に追従。むしろ2,110万画素の環境よりも、レンズ本来の解像力が引き出されているようだ。
収差の発生については画素数の向上による影響は感じられず、絞ることで諸収差が低減されていく様子はセオリー通りである。
さらに、5,000万画素環境でのレンズの描写特性を掘り下げるべく、ピクチャースタイルによる描写の違いについてもテストを実施した。ご存知のようにEOS 5DsRの初期時の設定ピクチャースタイルは「スタンダード」で、そのシャープネス設定は[強さ3/細かさ4/しきい値4]である。それに対して新モードの「ディティール重視」では、[強さ4/細かさ1/しきい値1]で、シャープネスがかかるピクセル単位が小さくなっている。
このシャープネス設定はレンズに対して大きな影響があり、「ディティール重視」では細線の再現性が変化。高周波帯の描写が向上する。また、「ディティール重視」では輪郭描写が弱められていることから、30本/mmの特性が高いレンズほど有利な設定内容である。
この画質傾向はAT-X 24-70 F2.8 PRO FXにも反映され、「ディティール重視」選択時には、太めの線の下に埋もれていた細線や被写体ディティール再現が向上。レンズ本来の再現力が発揮される。
テスト画像では密生する木々やタイルなどの描写に顕著な違いがある。また、細線が浮かび上がることで質感の表現力も高まり、被写体の立体感や丸みを上手に表現するようだ。この現象はF値による被写界深度の変化とは直接的な関係はなく、選択したF値なりの効果がそれぞれに現れる。これらを総括すると、EOS 5DsRでの使用においては「ディティール重視」の選択が好ましく、レンズの描写力を最大限に発揮させるためにも有益であることがわかった。
筆者はこれまでAT-X 24-70 F2.8 PRO FXを使い、ニコンD610(2,426万画素)をはじめニコンD810(3,635万画素)などで撮影を行ったが、そのなかにおいて、今回実施したEOS 5DsRでの撮影結果が最も優秀である。カメラ側の解像力の高さがその印象を左右しているのは当然ではあるが、カメラ側の解像力に対してレンズ側の性能が負けている様子がない。むしろ、上記機種での撮影時に感じていた“物足りなさ”が解消されたかのように、画素のパワーがストレートに伝わってくる。とくに、細線をしっかりと表現できる能力において5,000万画素機の能力はずば抜けており、その性能をあますことなく発揮できるAT-X 24-70 F2.8 PRO FXの潜在能力には驚くばかりである。
それでは、AT-X 24-70 F2.8 PRO FXとEOS 5DsRがコラボレートした作例を、皆さんと共に見ていきたい。
目次 [開く]
作例01 壁とイカリ
絞り値:f/11、露出時間:1/80秒、ISO感度:ISO-100、焦点距離:24mm
時代を経た壁に立てかけられたイカリを24mm側で撮影した。壁の質感をはじめとして、イカリの錆の状態までもが、手に取るにように分かる。
しっかりと解像していながらもギラギラとした雰囲気になっていないのは、レンズのコントラストが適切であることが考えられる。コントラストだけを高めて見栄えを良くしたレンズで撮ったならば、このナチュラルな質感は得られてはいなかっただろう。
高画素機と高解像力レンズの組み合わせは、これまでの常識を覆すほどの威力がある。
作例02 氷川丸全景
絞り値:f/8、露出時間:1/500秒、ISO感度:ISO-100、焦点距離:58mm
横浜の大さん橋から山下公園方面を写した。
氷川丸までの距離は500mほど離れているにもかかわらず、船体の凹凸まで鮮明に写し出されている。また、画面右のマリンタワーを見ると、鉄骨の1本1本が分離して描写されていることにも驚く。
さらに、この画面でもっとも細かいラインで構成される公園の木々も、ベタッとした描写にならずに至近距離で撮ったかのようにシャープだ。雲の描写が立体的であることからも、レンズとカメラの相性の良さが分かるだろう。
作例03 救命浮輪
絞り値:f/4、露出時間:1/320秒、ISO感度:ISO-200、焦点距離:24mm
船のデッキに備え付けられた救命用の浮輪を、24mmの広角端を使いF4で撮影した。
背景のボケの良さは以前撮影したニコン機でも経験済みだが、丸みを帯びた浮輪のディティールまでも忠実に再現。ステンシルで描かれた文字のペンキの厚みすら感じられるのには驚いた。
また、このようなシーンは倍率色収差の影響を受けやすいが、被写体のエッジにも色づきはほぼなく、3枚のSDガラスの効果で強力に補正されていることが分かる。点光源の反射で生じる玉ボケもなめらかで、ボケ同士が隣接していてもうるさく感じられない。
作例04 メーター類
絞り値:f/5.6、露出時間:1/40秒、ISO感度:ISO-2500、焦点距離:70mm
70mmの望遠端を使い、古びた計器類を撮影した。適切な被写界深度を得るためにF5.6まで絞って撮っているが、ゴリっとした雰囲気にならずに細線まで正確に描写されている。
とくに驚いた部分が画面中央左の計器盤の描写で、細かい英文字が1画もつぶれずに写っていることだ。また、計器によって文字の濃さが違っているが、これも現物に対して忠実。何度も塗り重ねられたペンキの盛り上がりもリアルに再現されている。
ISO 2500で1/40秒というローライトなシーンでの撮影だったが、ワンショットAFで即座にピントが合わせられ、停止位置もきわめて正確であった。
作例05 ビール瓶
絞り値:f/4、露出時間:1/1000秒、ISO感度:ISO-200、焦点距離:47mm
レンズのフォーカスクラッチでMFに設定。
ビール瓶のレリーフにピントを合わせて撮影した。ピント位置を起点に始まる大きく美しいボケは、本レンズならではの持ち味。また、ビール瓶の丸みまで描写されているのは、レンズの力が大きく作用している。窓さら差し込む光が玉ボケになって写っているが、ボケの輝度分布がなめらかであることから、重なっている部分が分からないほどエッジが柔らかい。
すべてのトーンに連続性があり、肉眼で見ている以上にフォトジェニックに撮れている。レンズのカラーバランスも適切で、淡い空の色も現物に対してきわめて忠実である。
作例06 日本丸
絞り値:f/8、露出時間:0.8秒、ISO感度:ISO-200、焦点距離:54mm
数えきれないほど撮影した定番の被写体だが、これほどまで鮮明に写せたことはなかった。
貼り合わせられた鉄板の継ぎ目はもとより、リベットの本数まで数えることすらできる。また、細かい鎖のつながりまでハッキリと見え、すべてのロープ類が分離していることに驚いた。
ここではライブビューでMFを使いピントを合わせているが、フォーカスクラッチに連動した鏡筒内のカムの動きが絶妙で、まるで指の動きを読んでいるかのよう。携帯性という点では外径の大きさはマイナス要因になり得るが、少ない回転角でピントの移動量が稼げるという意味においては、MFを使う場合にはむしろ有利である。
作例07 シロガネヨシ
絞り値:f/8、露出時間:1/1000秒、ISO感度:ISO-200、焦点距離:24mm
秋空に映えるシロガネヨシの群れを24mmで写した。これを解像力が低いレンズで写していたならば、花穂がくっついてしまっただろう。また、コントラストが高すぎるレンズを使っていたならば、ハリガネのように硬く写ってしまうはずだ。
レンズの良し悪しはさまざまなシーンで出てくるが、硬質なものよりも軟質な被写体を撮るときに差が表れやすい。その典型的な例がこの写真であり、ふわりと写しながらも画質に芯があるところが、AT-X 24-70 F2.8 PRO FXの特徴と言えるだろう。
作例08 キャンピングカー
絞り値:f/11、露出時間:1/500秒、ISO感度:ISO-200、焦点距離:24mm
生産されてから半世紀以上は経過しているであろう、ビンテージなトレーラー。航空機用のジュラルミンで作られた外装の質感までもが分かる。また、何度が塗り替えられたのであろうか、古いロゴマークの下地すら写っていた。独特の丸みを帯びた車体のフォルムが緻密に描写されており、バフがけされた部分は濡れているように美しい。
このような高度な表現を可能としている理由は、カメラとレンズの相性が良いことに尽きる。カメラがあってこそのレンズであるが、レンズがあってこそカメラの性能が引き出せるというもの。それを痛切に感じさせてくれた1枚だ。
作例09 花
絞り値:f/5.6、露出時間:1/1000秒、ISO感度:ISO-100、焦点距離:70mm
画素のパワーとレンズの描写力が、ともに引き出された好例。撮影データを伏せてしまえば、マクロレンズで撮ったと言っても誰も疑わないだろう。
この写真は最短撮影距離で撮影しているが、近距離撮影時に増大する収差の影響は、画面のどこからも感じられない。また、花全体にピントを合わせるためにF5.6まで絞っているが、背後の花や葉はきれいにアウトフォーカス。一定の方向に引っ張られている様子も見られない。
多画素機が遠景に強いことは他の作例でも述べているが、被写体に近接してもその実力が発揮される。解像力とボケが高次元で融合した1枚で、カメラとレンズ性能のすべてが凝縮されている。
作例10 洋館
絞り値:f/11、露出時間:1/250秒、ISO感度:ISO-100、焦点距離:26mm
細線から平面までを含む、テストチャートのような被写体。
パソコンで100%表示させて最初に驚いた部分は、画面奥にある建物の屋根。石材のひとつひとつまで鮮明に見え、それぞれの形まで認識できる。また、経年変化で浮き上がっている壁板の質感表現も秀逸で、木目はおろか釘の頭まで写し出されている。
近距離にある花や葉の描写も正確であり、まるでイラストを見ているかのようにシャープだ。
この作例は広角端に近い26mmで撮ったものだが、歪曲収差の発生は感じられず屋根の形も正確。カメラ側から色収差補正は行えないが、それを必要と感じないほど倍率色収差もほぼない。この性能は発売されているF2.8標準ズームでもトップレベルだろう。
作例11 レンガの壁
絞り値:f/8、露出時間:1/250秒、ISO感度:ISO-100、焦点距離:45mm
蔦が絡まるレンガの壁を、ズーム中間域の45mmで真正面から捉えた。まるで単焦点レンズのようにディストーションが少ないのは、前後群に分散配置された非球面レンズの威力によるものだ。
さらにこの作例では蔦の葉脈まで見えるシャープさに加えて、パンフォーカスでありながらも葉とレンガの距離差が感じられることにある。
つまり、蔦の葉が浮き上がって見えるのだ。
この描写を可能としているのは画素とレンズのパワーにあるが、平面的なものを立体的に写せるとは思いもよらなかった。被写界深度に対する概念を変える必要がありそうだ。
作例12 海
絞り値:f/8、露出時間:1/6400秒、ISO感度:ISO-400、焦点距離:24mm
24mmの広角端を使い、台風一過の秋晴れの空を背景に海を撮影した。もちろん足は水に浸かっているが、ビーチサンダルをしっかりと持参(笑)。
画面のギリギリまで有効に使っている。沖に見える波頭まで正確に見えているほか、画面の中央で白く砕けた波は、丸みを帯びて写っている。ホワイトバランスは初期設定のままのオートだが、空の発色はニュートラルで白い雲にも色かぶりはない。
このことからも、レンズコーティングによる色彩への影響がきわめて低レベルに抑えられていることがわかる。
作例13 バイク
絞り値:f/8、露出時間:1/80秒、ISO感度:ISO-125、焦点距離:70mm
新車のようにリストアされた往年のトライアンフ・ボンネビル。エンジンブロックの鋳型の模様や、使い込まれたボルトやナット類の質感がリアルだ。また、強い太陽光の下で撮影しているが金属パーツにも色にじみはなく、ガソリンタンク貼られたゴムの凹凸感も見事に再現されている。
安全性を高めるためにリプロダクトされた新品パーツが使われているが、それが見分けられるのも高い再現力があってこそ。また、被写界深度を得るためにF8まで絞っているが、画面左の部分は自然な雰囲気でぼけていて、なんら違和感はない。