フルサイズの標準ズームとして24-70mmは王道の焦点域で、市場にはF2.8~F4の開放値の製品が多数存在している。
光学的にF値の差は被写界深度に影響を与えることはご存知のとおりで、表現力においてF2.8の優位性には揺るぎないものがある。まるで6弦のギターと12弦ギターの違いのように、倍音(ボケ)が加わることによって表現に深みが出るのである。
確かにF4設計は光学的に合理性があり、レンズの小型化に関しては有利。しかし、F値1段分の差はあらゆるシーンに効いてくる。
また、24-70mmはレンズメーカーの威信を賭けた焦点域で、名品が多く存在している。その中にあってAT-X 24-70 F2.8 PRO FXは、基本に忠実に画質の高さと表現の素直さで差別化を図っている。
とくに、特殊レンズの使い分けに特徴があり、前後に配置された非球面レンズがペアになって、非点収差や歪曲収差を補正。絞りの近くに配置されたSDガラスによる非球面レンズが、球面収差と色収差を補正している。
球面収差と色収差は単色収差と色収差というカテゴリーが違う収差ではあるが、軸上色収差は球面収差と同様に“距離の収差”であることから、この設計思想は合理的である。材質的に脆いSDレンズを非球面化することは高度な技術を要するが、AT-X 24-70 F2.8 PRO FXでは、これを30mm超の大口径で実現。ペアで機能する非球面レンズらと役割を明確に分担することで、高解像力と柔らかいボケ味を両立させている。
それでは、AT-X 24-70 F2.8 PRO FXで撮影した作例を見ながら、その描写特性について解説していきたい。
目次 [開く]
作例01
使用焦点距離:50mm, カメラ:Nikon D610, 絞り値:f/5.6, シャッタースピード:1/50秒, ISO感度:ISO-400
まるで単焦点レンズで撮影した画像のように、高い解像力と素直なボケが発生している。 とくに、紫色の花における描写特性は秀逸で、繊細なシャープネスによって立体的に被写体の特徴を捉えている。セオリー通りに絞るほどに全体のシャープ感が高まっていくが、輪郭とディティールの描写力がバランス良く向上していくので、必要以上にゴリっとしたイメージにならず、どのF値を選択しても絵のテイストが変わりにくい。
作例02
F2.8らしい大きく美しいボケが発生。
雑然とした背景の中から主題が分離している。
とくに、背景のボケには口径食による影響はほぼ見当たらず、通称“玉ボケ”と呼ばれる光源の反射によるボケにも形の崩れは確認できない。
また、非点収差などが高度に補正されているためにボケが同心円状に渦を巻くこともなく、せっかくのボケが目障りになってしまうこともない。
思い切って開けて撮るのが正解だ。
使用焦点距離:70mm, カメラ:Nikon D610, 絞り値:f/2.8, シャッタースピード:1/500秒, ISO感度:ISO-100
作例03
標準ズームの広角端が苦手とするシーンの典型例。ディストーションの発生もさることながら、周辺画質を維持することが要求されるからだ。
ここでは必要な被写界深度を計算した上でF5.6を選択。荘厳な天井画を一気に写し込んだ。
周辺画質に不安のあるレンズならF8以上まで絞り込む必要のあるシーンだが、AT-X 24-70 F2.8 PRO FXならそれらを気にすることなく画面全域で高い画質を得られている。
使用焦点距離:24mm, カメラ:Nikon D610, 絞り値:f/5.6, シャッタースピード:1/25秒, ISO感度:ISO-800
作例04
使用焦点距離:70mm, カメラ:Nikon D610, 絞り値:f/2.8, シャッタースピード:1/80秒, ISO感度:ISO-400
原則的に近接撮影では収差が増大する傾向があることから、開放から寄って撮れる標準ズームは多くはない。
しかしAT-X 24-70 F2.8 PRO FXでは、近接時に目立ちやすい諸収差が良好に補正されており、マクロレンズで撮影したかのように濁りがなくシャープである。
最短撮影距離は約0.38mとほぼ一般的なスペックながら、画質の高さでは同クラスの中でも群を抜いているだろう。
作例05
使用焦点距離:50mm, カメラ:Nikon D610, 絞り値:f/8, シャッタースピード:1/100秒, ISO感度:ISO-100
崖の上から眼下のせせらぎを写した1枚。
水面までは約50m離れているが、岩に密生するコケ類や植物の葉がシャープに写っていた。2,426万画素のカメラで撮影したものだが、AT-X 24-70 F2.8 PRO FXの解像力にはまだまだ余裕があり、3,000万画素オーバーのカメラでも撮像素子のパワーを引き出せるであろう。
画面全体の像面湾曲もほぼ感じられず、中心部と周辺部での画質ムラは見当たらない。画質の安定感は抜群である。
作例06
最短撮影距離を使って、食後のデザートを屋外のテラスで撮影した。
適切な被写界深度を得るためにF4を選択しているが、大口径レンズならではの大きく柔らかいボケが発生。チョコレートソースの輪郭にも縁取りがなく素直にぼけている。ピント位置の前後から大きなボケが発生しているが、まるでグラデーションを描くように連続的に繋がり、ボケに硬さを感じさせない。
日常的なシーンを撮る場合にも、特別なテクニックを用いずに高い画質を楽しむことができる。
使用焦点距離:70mm, カメラ:Nikon D610, 絞り値:f/4, シャッタースピード:1/640秒, ISO感度:ISO-100
作例07
通常、このようなシーンで最も気になるのが、軸上色収差による色付きと、それに伴うシャープネスの低下だ。軸上色収差は絞ることによって改善される性質があるが、そのために絞ってしまっては撮影意図が狂ってしまうことがある。
しかし、本レンズは適切に配置された3枚のSDガラス(うち1枚は非球面レンズ)によって金属パーツに色収差が残存せず、被写体の質感が正しく描写され、撮影意図をストレートに反映させられる。
使用焦点距離:70mm, カメラ:Nikon D610, 絞り値:f/4, シャッタースピード:1/250秒, ISO感度:ISO-100
作例08
使用焦点距離:35mm, カメラ:Nikon D610, 絞り値:f/8, シャッタースピード:1/40秒, ISO感度:ISO-450
背景の模様が幾何学的に映り込んだ洋酒のディスプレイを撮影した。
ガラス素材の撮影ではピント位置の正確なコントロールが大切で、カメラ側のAF性能に加えてレンズ側の応答精度が要求される。ここでは、シングルAFを使ってガラス瓶のレリーフにピント合わせを行っているが、狙い通りにフォーカスレンズがピタリと停止。高精度な制御が行われていることが確認できた。
作例09
使用焦点距離:24mm, カメラ:Nikon D610, 絞り値:f/8, シャッタースピード:1/15秒, ISO感度:ISO-6400
リゾートホテルの吹き抜けを見上げるように撮影した。
画面の端までシャープに解像し、非点収差による周辺画質の低下は確認できない。
一般的にレンズの画面周辺部の画質を低下させる収差は複数存在しているが、なかでも非点収差は絞っても解消されないので最もやっかいな存在。カメラの機能や添付ソフトなどでも補正がしにくいため、AT-X 24-70 F2.8 PRO FXのように光学的に解決することが唯一の手段であると言っていい。
作例10
使用焦点距離:24mm, カメラ:Nikon D610, 絞り値:f/7.1, シャッタースピード:5秒, ISO感度:ISO-100
地上69階から見た横浜の夜景。
ガラス越しに撮影しているにもかかわらず、道路の文字や船のロープまでが鮮明に写し出されている。また、レンズに向かって無数の点光源が放たれているが、光源の周囲にフレアーはなく、ゴーストの発生もまったくと言っていいほど確認できない。さらに、画面端の点光源ですら正確な形を維持しており、点が点として写っていることに驚いた。
作例11
使用焦点距離:24mm, カメラ:Nikon D610, 絞り値:f/5.6, シャッタースピード:1/60秒, ISO感度:ISO-1600
24mmの画角は被写体の一部分をことさら強調せずに、適度な広がりが得られる焦点域。
本レンズは非球面レンズの作用で歪曲収差が抑えられているため、画面に間口を形成した絵作りにも最適。
ここでは、手前の機関車の屋根や車体を大胆に入れ込みながら、機関部の質感や画面の奥に停まっている鮮やかな客車を同時に写し込んだ。歪曲収差が大きく残存していたならば、このような表現を行なうことにためらいが生じていたであろう。
作例12
使用焦点距離:24mm, カメラ:Nikon D610, 絞り値:f/8, シャッタースピード:1/160秒, ISO感度:ISO-100
遠景の木々の細部まで再現しており、解像力の高さを物語っている。
また、正確にコントロールされたカラーバランスによって水面の色や、緑色の彩度と色相の違いを正確に描写。現場の雰囲気がストレートに再現されている。
また、広角端の倍率色収差は絞りで解消しないため、レンズ性能が問われてくる。AT-X 24-70 F2.8 PRO FX は3枚のSDガラスによる徹底した倍率色収差対策によって、画面周辺域の枝にも色ずれが起こっていない。
作例13
使用焦点距離:24mm, カメラ:Nikon D610, 絞り値:f/11, シャッタースピード:1/320秒, ISO感度:ISO-200
24mmのワイド感は被写体に近接するほど強くなり、焦点距離のイメージ以上にパースペクティブが付く。
ここでは、フォーカスクラッチ機能を使いMFでピントをあらかじめロック。
列車がベストな位置に来るのを待ってシャッターを押した。
物理的にAFとMFが瞬時に切り換えられるため、置きピンで撮影する場合にも慌てずにすむ。また、青の発色の良さはトキナーレンズ全般に言えることで、カラーバランスの良さを示している。
作例14
使用焦点距離:70mm, カメラ:Nikon D610, 絞り値:f/2.8, シャッタースピード:1/1600秒, ISO感度:ISO-100
F2.8ならではのボケによって、主題が明確に浮かび上がっている。
ここでのポイントは、ボケの大きさとともにボケの質にあり、ボケ同士が融合することでさらに大きなボケを作り出している。もし、ボケのエッジが硬いレンズで撮ったならば、画面右奥の花のボケがざわついていたであろう。
また、ピント位置の直近から大きなボケか得られることも、開放F2.8レンズならではの特徴である。
作例15
使用焦点距離:70mm, カメラ:Nikon D610, 絞り値:f/2.8, シャッタースピード:1/4000秒, ISO感度:ISO-100
小さな漁村で出会った野良猫たちを望遠端でスナップした。開放ながらも手前の猫の顔はシャープに解像。
また、美しいボケによってふわりとした毛の質感が再現されている。レンズ駆動にはSDMを利用しているが、動作音がきわめて静かなことから猫に警戒されることなく撮影が行えた。AFの駆動音よりも合焦時の電子音のほうがむしろ大きかったくらいだ(笑)。開放での撮影だが、ここでも周辺減光はほぼ発生していない。