35mm判で慣れ親しんだ、70-200mmのデジタルバージョン。
望遠系は35mm判のものを流用しても問題ないと考えがちだが、通常の 70-200mmは1.5倍換算で105-300mmとなり、望遠色が強くなるのが難点。
望遠傾向となることで得をした気分になるが、実際に使うと感覚的に身についた70-200mmとの感覚の差に、どこかしっくりこないこともある。
AT-X 535 PRO DXは35mm換算値(1.5倍計算)で約75-202mm。そのうえ開放F値はF2.8固定。サイズは実際に手に取ると思う以上に小型であり、全長は 135.2mmとコンパクト。
そのためカメラバッグに縦置きしてもかさばらず、機材量の制限のあるロケに重宝する大きさだ。またフィルターサイズは 67mmであり、フードを含めて細身であるため、携帯性に優れていることも特徴といえる。描写はきわめてパワフルであり、大口径ならではのボケと単焦点レンズと同等のシャープさが同居する。
小ささと性能が高次元でマッチした、新時代の望遠ズームレンズだ。
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作例01

信じられないほどシャープな描写だ。 金属部のエッジの表現に、AT-X 535 PRO DXの実力が見てとれる。十分に光が回らない撮影現場だったが、レンズの底力で被写体がさらに引き立った。背景のボケにも硬さはなく、被写体がきれいに浮かび上がる。 ボケの使い方には様々な用途があるが、肝心のボケが汚くては作者の意図はなかなか伝りにくい。その点、AT-X 535 PRO DXのボケには主題の邪魔をしない素直な資質がある。
キヤノンEOS30D 2336×3504 AT-X 535 PRO DX 88mm域で撮影 1/4秒 F4.5 -0.3EV補正 ISO100 AWB
作例02

シャープさのなかにも丸みがあり、被写体が立体的に描写された。また鏡胴はコンパクトで取り回しやすいため、ふと気になったワンシーンを切り取るようなラフな使い方ができる点もいい。 しっしとりした質感表現力は何を撮っても絵になりやすく、撮影時よりも再生した時にむしろ大きな驚きがある。広角側で撮っているがちょうどいい長さであり、35mm用の70-200mmの感覚そのままに、ファインダー上で画面を自由にトリミングすることができる。
キヤノンEOS30D 2336×3504 AT-X 535 PRO DX 53mm域で撮影 1/500秒 F7.1 +0.3補正 ISO200 AWB
作例03

キヤノンEOS30D 2336×3504 AT-X 535 PRO DX 95mm域で撮影 1/25秒 F4 +0.7EV補正 ISO100 AWB
標準クラスのレンズと違って、ある程度の大きさの被写体でも思い切って背景を省略できるのが、望遠ズームの醍醐味。背景のボケは絞り以上に焦点距離の長さが最終的にモノを言う。 室内でも大きすぎないため、標準ズームを使う気軽さで撮影できることもこのレンズの利点のひとつだろう。背景と手前が同時にボケて主題がさらに浮かび上がっている。 二線ボケの傾向はなく、必要以上に背景の写り込みに対して神経質にならなくてもいい点もうれしい。
作例04

色収差の発生はきわめて少なく、金属質のものも安心して撮影できる。 またコントラストもほどよく、シャドー部の急激な落ち込みも少ない。そのためにタイヤのサイドウォールも忠実に再現できた。 詳細なピント合わせにはワンタッチフォーカスクラッチ機構を使い、マニュアルフォーカスで撮影してもいい。ピントリングの動きにも適度なトルクがあり、手ざわりが良く撮影そのものが楽しくなる。また三脚座の動きもスムーズで、自重により回転が渋くなることはない。
キヤノンEOS30D 2336×3504 AT-X 535 PRO DX 98mm域で撮影 1/200秒 F5.6 -1EV補正 ISO100 AWB
作例05

望遠側の135mmで撮影したが解像力に衰えはなく、被写体の毛まで緻密に表現できている。また背景のボケが素直であるため、動物園にありがちな飼育舎のドアなどが省略され、まるで野生で撮ったかのような仕上がりになった。135mm側ではさすがに被写界深度は極端に浅くなるため、一脚などを利用して確実に撮影するといいだろう。 インターナルフォーカス式は望遠時にでもバランスが崩れず、縦位置撮影も容易にできる。
キヤノンEOS30D 2336×3504 AT-X 535 PRO DX 135mm域で撮影 1/500秒 F4 ISO100 AWB
作例06

キヤノンEOS30D 2336×3504 AT-X 535 PRO DX 135mm域で撮影 1/640秒 F2.8 -0.7EV補正 ISO400 AWB
開放時のボケがいいため、背景の光の反射を積極的に作品に取り入れてみた。ボケが汚いレンズではこのように光を使うことができずやや消極的になってしまうものだが、AT-X 535 PRO DXでは攻めの姿勢で写真が撮れることがなにより強み。 画面周辺の光の反射も自然な消失感があり、そのためピントの合った部分のシャープさがいっそう際立つ。 逆光に近いシーンだったが、フレアもなく暗部がしっかりと締まって写真に重厚感が加わった。