市販されている望遠ズームレンズにおいて、70-200mmほど人気の高いレンズはない。
どうして70-200mmが支持されているのかを考えると、その使い勝手の良さにたどり着く。扱いやすい焦点域でシーンを選ばず、フルサイズでもAPS-Cでもほどよい長さになる。また、70-200mmというズーム比は撮影者の視覚とも合致しており、肉眼で見て撮りたいと感じるものを素直に引き寄せられることも人気の秘密だろう。
70-200mmの激戦区にトキナーが投入したAT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-Sは「画質と携帯性にこだわった1本」で、1mというトップクラスの最短撮影距離と、シャッター速度換算で約3段分の手ぶれ補正機構を搭載した意欲作。
画質へのこだわりは3枚のFK-01レンズと絶妙な光学バランスに現れており、色収差を徹底して排除しつつ高い解像力を発揮する。
また、全長167.5mmというコンパクトさに加えて、強力な手ぶれ補正機構が撮影をアシスト。面白いように手ぶれが止まる。F4で設計しているため前玉の直径とレンズ全長が短く、いつでもどこへでも連れ出せる。
F2.8クラスの明るさとぼけの大きさは魅力ではあるが、常時携帯できるのかと問われれば、答えは“NO”だろう。F4設計の最大の利点はそこにあり、いつでも持ち出せるからこそ劇的な瞬間に出会え、撮影できる。
それでは、AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-Sで撮影した作例を見ながら、その特徴について掘り下げてみたい。
目次 [開く]
作例01
焦点距離:200mm、シャッタースピード:1/400sec、絞り:F8、ISO感度:100
ピクチャーコントロール:[VI]ビビッド
カメラから富士山までの距離は約22km。
これだけ離れているのに山肌までハッキリと見えるのは、解像力の高さがあってこそ、だ。近接撮影では解像力の差は出にくいものだが、遠くの被写体を狙うときにレンズの実力が良くわかる。
ドライブがてら高速道路のSAから手持ち撮影したものだが、運良く晴れ間の富士山を写すことができたのも、小型で持ち出しやすいことが効いている。
作例02
焦点距離200mmでミミズクをクローズアップした。
背景のぼけが美しいことはもちろんだが、ミミズクの左耳までシャープに写っていることには驚いた。
画面の端はレンズにとっては鬼門で、たとえ中央部がシャープであっても、解像力不足になりやすい。しかし、AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-Sは、開放ながら画面の端までしっかりと解像。
その潜在能力の高さを垣間見た。
焦点距離:200mm、シャッタースピード:1/100sec、絞り:F4、ISO感度:100
ピクチャーコントロール:[SD]スタンダード
作例03
撮影現場は写真で見るよりはるかに暗い。ほとんど光源がなく、画面左手からの自然光が僅かに差し込む程度。しかし、強力な手ぶれ補正機構のおかげで、1/10秒で撮影することができた。
撮影焦点距離から手ぶれしないシャッター速度を計算すると、ここでは1/100秒程度が必要。しかし、手ぶれ補正機構の威力で、望遠域ながら驚くほどのスローシャッターが切れている。
焦点距離:98mm、シャッタースピード:1/10sec、絞り:F5.6、ISO感度:800
ピクチャーコントロール:[SD]スタンダード
作例04
焦点距離:78mm、シャッタースピード:1/2000sec、絞り:F9、ISO感度:200
ピクチャーコントロール:[VI]ビビッド
パソコンで再生して初めて気づいたのだが、風で吹き飛ばされていく砂粒が画面の暗部に写っていた。解像力が高いからこそ砂の粒までが写っているわけで、解像力が低いレンズでは煙のように写ってしまうだろう。
また、AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-Sはインナーフォーカス式なので、砂塵が舞う撮影現場でも安心して使うことができた。
作例05
焦点距離:120mm、シャッタースピード:1/200sec、絞り:F8、ISO感度:100
ピクチャーコントロール:[VI]ビビッド
朝焼けが美しい熱海の景色。
峠の中ほどから撮影しているが、強烈な反射光によるハレーションやゴーストもなく、逆光耐性は予想以上にある。被写体までの距離は約400m離れているが、ホテルの看板や船に書かれた文字が読み取れるほど解像力が高い。
また、看板や壁面の一部がモアレを起こしているが(笑)、これもレンズの解像力が高いからこそ現れたもの。
あらためて、AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-Sのキレの凄さを感じた。
作例06
このように同様の被写体が重なり合うシーンが、ぼけの良し悪しがハッキリと現れてくる。ぼけが硬いレンズは、多くの場合において二線ぼけが発生。ぼけの外周に縁どりが付きやすい。そのため、作例のように似た被写体がぼかすと、画面がうるさくなってしまうのだ。
しかし、AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-Sは、ご覧のとおりにぼけが柔らかく、主題を明確にすることができる。
焦点距離:160mm、シャッタースピード:1/50sec、絞り:F4、ISO感度:100
ピクチャーコントロール:[SD]スタンダード
作例07
焦点距離:70mm、シャッタースピード:1/50sec、絞り:F4、ISO感度:100
ピクチャーコントロール:[SD]スタンダード
160mmでF8を選択して撮影した。
一般的に、F8まで絞るとぼけが硬くなる場合が多いが、AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-Sでは、F値に応じた素直なぼけが発生。必要な部分にピントが合い、背景を適度に省略できる。
反射光よる玉ぼけも形が崩れておらず、ズームレンズのぼけとは思えないほど柔らかい。単焦点レンズで撮ったと言っても、ほとんどの人は気づかないだろう。
作例08
焦点距離:200mm、シャッタースピード:1/640sec、絞り:F4、ISO感度:100
ピクチャーコントロール:[LS]風景
前ぼけを入れても画面がうるさくならないことも、AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-Sの特徴。
ここでは白と赤のチューリップを前ぼけとして使っているが、花の輪郭が滑らかにぼけていく様子がわかる。ぼけの大きさではF2.8クラスよりも小さいが、ぼけの柔らかさがF値差をカバー。遜色ないぼけ味が得られている。
ぼけは大きさよりも“質”が写真の出来に大きな影響を与える。
作例09
焦点距離:200mm、シャッタースピード:1/1250sec、絞り:F8、ISO感度:100
ピクチャーコントロール:[VI]ビビッド
着陸寸前の飛行機を200mmで撮影した。
超音波モーターによるフォーカス駆動で、ガッチリと被写体を捕捉。機動力は抜群だ。
また、画面全域で解像力が安定しているので、画面端に主要被写体を安心して配置できる。ここでは三分割構図の交点に旅客機を配置。誘導灯のラインを対角線上に横切らせて、画面のスペースを有効活用している。
作例10
焦点距離:200mm、シャッタースピード:1/400sec、絞り:F8、ISO感度:100
ピクチャーコントロール:[VI]ビビッド
時速300km/h前後で滑走路に進入してくる飛行機を真下から撮影してみた。
あまりの速さにピントが合っているのか不安だったが、パソコンで確認するとしっかりと合焦していた。また、飛行機の細部まで鮮明に写り、脚部の構造からリベットの1本まで確認できる。
手ぶれ補正機構のためファインダー像がつねに安定。構図を考えながら被写体を追いかけられた。
作例11
焦点距離:100mm、シャッタースピード:1/10sec、絞り:F4、ISO感度:100
ピクチャーコントロール:[LS]風景
写真でもわかるように、室内はほぼ真っ暗な状態。このようなシーンでISO感度を不用意に上げてしまうと暗部にノイズが発生してしまい、被写体の質感が伝わらない。
ここでは、ISO 100を選択しつつ、1/10秒のスローシャッターで手持ち撮影を実施。質感を損ねずシーンを忠実に再現した。
また、ハイライト部にも色収差の発生がなく、開放ながらきわめてシャープに写っている。
作例12
焦点距離:70mm、シャッタースピード:1/8sec、絞り:F4、ISO感度:100
ピクチャーコントロール:[SD]スタンダード
焦点距離が短い広角レンズでも、1/8秒で手持ち撮影するには高度なテクニックが必要。
しかし、このシーンでは70mmながら1/8秒のシャッター速度で撮影することができた。
カタログでの手ぶれ補正能力はシャッター速度で約3段分だが、カメラとレンズをしっかりホールドすれば、4段分以上の補正効果を上げることもできるだろう。
作例13
焦点距離:200mm、シャッタースピード:1/100sec、絞り:F4、ISO感度:100
ピクチャーコントロール:[VI]ビビッド
200mmで1mまで近接すると、まるでマクロレンズのように被写体を大きく写すことができる。
一般的に70-200mmの最短撮影距離は1.2~1.4m前後だが、AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-Sは1mというトップクラスの性能を実現。引きのない室内でも扱いやすい。また、リング式の超音波モーターの構造からフルタイムマニュアルフォーカスも可能で、ピント位置の微修正も容易に行えた。