よく晴れたうららかな日に、お気に入りのAPS-Cのデジイチを携えて街歩きをするなら、あなたはどんなレンズを持ち出すだろうか。
街歩きには一般的に、標準ズームレンズや高倍率ズームレンズが適していると言われるが、筆者は迷うことなく、広角ズームレンズのAT-X 12-28 PRO DXを連れ出す。
都市部では、眼前に現れる高層ビルに対応するためにも、12mmの画角は必須。また、狭い路地が続く古い街並みを撮影するときにも、画角の広さがなによりものを言う。
さらに、気になった被写体をクローズアップするときには、望遠側の焦点距離が能力を発揮。広角ズームレンズとは思えないほど、被写体を大きく捉えることができる。
AT-X 12-28 PRO DXは、現在発売されている12mmスタートのAPS-C用広角ズームレンズのなかで、もっともズーム比が高い(約2.3倍)。AT-X124 PRO DXⅡの技術をベースに光学系を新設計。望遠側の焦点距離が4mm伸ばされたことで、シーン対応力が大幅に向上。撮りたかった“あの絵”が写すことができる。
これまで広角ズームレンズは、標準ズームレンズとペアで使うことが多かったが、AT-X 12-28 PRO DXならこれ1本でOK。レンズの交換の手間と時間が省かれることで、シャッターチャンスにも強くなる。
詳しいスペックは製品紹介ページをご覧いただくとして、ここではAT-X 12-28 PRO DXの描写性能と、このレンズならではの使い方について、実写画像を交えて解説していきたい。
目次 [開く]
作例01
焦点距離12mm F11.0
35mm判換算で約18mm相当の画角から発生する、この圧倒的なパースペクティブが12mmの醍醐味。地面のスレスレの位置から見上げるようにして撮影しているため、迫力ある表現が行えた。また、画角は広いがワイドレンズ特有のディストーションが少なく、画面の端に向かって被写体が引っ張られていない点も注目だ。
作例02
焦点距離28mm F4.0
望遠端の開放で撮影した1枚。35mm判換算で42mmの画角が得られるため、標準レンズで捉えたような落ち着きのある写真が撮れる。また、開放絞りで撮影しているが、塗装の質感が手に取るようにわかるほどシャープだ。望遠端でもP-MO非球面レンズが効果的に作用。球面収差などを良好に補正していることがわかる。
作例03
焦点距離12mm F16
趣のある庭園を室内から撮影したもの。12mmの広角端を使って軒下に吊り下げられた灯篭を大きく写し、屋根のラインを横切らせることで構図に変化をつけた。このように大胆な構図が作れることも12mmならではの特徴で、標準ズームでは表現できない。落ち着きのある場所をあえてアクティブに表現して、インパクトのある仕上がりを狙っている。
作例04
焦点距離25mm F6.3
狭い路地が続く古い街並みでは、満足な引きが得られることはむしろ少ない。ここでは、ズームを25mm付近にセット。古風な町家を数歩離れた位置から、まっすぐに撮影した。P-MO非球面レンズの作用によって直線の描写にも歪みが少なく、町家独特の玄関口や格子戸などが正確かつ、拡張高く描写されている。
作例05
焦点距離12mm F8
この界隈の“あるじ”らしき一匹の猫。バリアングルモニターを使ってカメラを地面スレスレに構え、板塀と青空を同時に写し込んでいる。メインの被写体ととともに、広い範囲を写せることが広角ズームの特徴。街をテーマに撮影するには、この画角が欠かせない。主題と副題のバランスを考えながら、街の魅力を引き出してみよう。
作例06
焦点距離13mm F14
明治期を代表する建築物のひとつである、東京駅の天井ドーム。ここでは、低感度でクリアに描写したかったので、カメラを床に置いてバリアングルモニターでライブビュー撮影した。ご覧のように画面全域で高い解像力を発揮。細かなレリーフはもとより、落下防止用のネットまでが、克明に写し出されている。とくに、画面四隅にある柱の描写は秀逸。
作例07
焦点距離19mm F11
通称「マジックアワー」と呼ばれる夕暮れ時をねらって、丸の内側から東京駅を撮影した。画面のシャープともさることながら、トキナーレンズ特有のカラーバランスによって、赤レンガがきれいに写し出されている。また、トキナーブルーによる空の発色も期待通りで、赤レンガと見事にコラボレーション。夜景に彩りを添えている。
作例08
焦点距離12mm F11
広角ズームはその画角の広さから、さまざまな光源からの影響を受けやすい。AT-X 12-28 PRO DXでは、AT-X124 PRO DXⅡで定評のある新設計のマルチコーティングを採用。ゴーストやフレアーを極少に抑えている。この作例では、明るい4つの街灯と自動のヘッドライトが画面内に入っているが、それらからの影響はほぼ皆無だ。光源の周囲に発生するきれいな光条(光の尾)が、画面上でのアクセントになっている。
作例09
焦点距離12mm F16
内蔵ストロボで日中シンクロしながら、ビル群を背景に桜を撮影してみた。今回の撮影では2400万画素のニコンD5200を使用しているが、最新の光学設計によって細部まで緻密に解像。とくに、遠景の描写がきわめて緻密だ。発色の良さは夜景のカットでも触れているが、淡い桜の色を忠実に再現し、青空の発色もトキナーレンズらしくビビッドで深みがある。
作例10
焦点距離12mm F14
オフィス街に突然と姿を現した、ゴージャスなチャペル。扉の造形美を生かしつつ、12mmでワイドに撮影。その全体像を画面内に入れた。このようなシーンでは、建物の周辺部に色収差がきわめて発生しやすいが、蛍石の能力に限りなく近いSDガラス(超低分散)ガラスFK01とFK03によって、まったくと言っていいほど色収差が発生していない。この描写は、やはり凄い。
作例11
焦点距離28mm F5.6
クラシカルな洋館の内部でのひとコマ。ここではズームを28mmにセット。背景の光源を大きくぼかした。玉ぼけのカタチが真円に近くなめらかで、広角ズームとは思えないほど美しい。さすがに、大口径の単焦点レンズには及ばないが、広角ズームの望遠端としてはきわめて高性能だ。これまで広角ズームの望遠側は、広角側の“おまけ”的なイメージが強かったが、このレンズなら望遠側をしっかりと使いこなせる。
作例12
焦点距離28mm F8
街歩の途中立ち寄った、お寿司屋さんでのワンカット。望遠側を使って撮影したものだが、握り寿司をここまで大きく写すことができる。ネタのみずみずしさや、彩り鮮やかな素材の雰囲気が正確に再現された。この撮影倍率(約0.2倍)の高さがAT-X 12-28 PRO DXの魅力であり、これ1本でさまざまな被写体に対応できることを示している。もちろん、撮影後は即座にお寿司を平らげたことは言うまでもない(笑)