萩原和幸
トキナーのAPS-Cセンサー機用広角ズームで、特に評価の高いAT-X 116 PRO DX Ⅱのテレ側が20mmに伸ばされたこのレンズ。35ミリ換算で約17.6~32ミリ(キヤノンAPS-Cセンサー機)となり、広角ズームレンズとして使いやすさがさらに向上した。にもかかわらず、開放値はAT-X 116 PRO DX Ⅱ同様F2.8のままは嬉しい限りだ。
レンズ構成はやや変わり、前群にP-MO非球面レンズを配置、後群にはガラスモールド非球面レンズと3枚ものSDガラスを採用することで、ディストーション・各収差を補正する贅沢設計になった。高画素というだけでなく、明らかに高画質化している昨今のデジタルカメラに、真摯に対応している姿勢が見てとれる。
開放値F2.8は、開放近くで背景をボカす機会が多いポートレート派には嬉しいスペックだ。特にテレ側が伸びたことで、ポートレートでの使いやすさは格段に向上したと言える。これまでのAT-X 116 PRO DX Ⅱではテレ側が28ミリにも満たないので、持ち出すシーンがかなり限定されていたし、超広角という性格上、AT-X 116 PRO DX Ⅱでの極端に変化をつけた画の撮影は難しかったことだろう。しかし、約32ミリになったことで、パースを生かした“広角らしい”画作りから、“自然な距離感”の画作りまでを賄えるようになった。しかもズーム全域開放値F2.8の強みもあり、背景をボカしたいシーンや、光が乏しいシーンでも、躊躇無く持ち出せる。この点は、ポートレート派には重要なスペックとなる部分なので、両手を上げての受け入れ態勢のユーザーが多いに違いない。
最短撮影距離も0.3mから0.28mに短縮。テレ側+4mに0.02m短縮は、数値上はこんなものかと思われるかもしれないが、使うとなるとこのちょっとが“大きな”ちょっとであることを実感するだろう。
ポートレートではモデルが魅力的に写せるか、という感覚が大事になるので、周辺画質云々は、他の写真家諸氏にお任せする。私の素直な感覚は、“いい感じ”のレンズだ。
窓から差し込む光、織りなす影、大きく取り込めるのが広角レンズの魅力の一つ。
手足が長く、とてもバランスのいい彼女を、雰囲気と合わせて十二分に取り込んでいく。広角ズームでピタリとハマる画角を探るのも面白みの一つだ。直線と(彼女の)曲線の対比がイメージにあり、ややシャープさを出す為に、絞りは少し絞ってみた。
キヤノンEOS70D 絞りF4.5 1/125秒 ISO200 WB:マニュアル RAW 16mm域
カーテンにたわむれ、いたずらにこちらを振り返る。
11-20 PRO DXの描写は繊細で柔らかい。カーテンの(繊維の)目も、この逆光の中、開放F2.8でもキチンと描写されている。でもパリッとした印象にならない。
肌の感じもしっとりした湿気を含んだような感じになり、ポートレート派には嬉しい写りであることは疑わない。
キヤノンEOS70D 絞りF2.8 1/320秒 ISO200 WB:マニュアル RAW 20mm域
開放F2.8で撮影。
ピント面はシャープな写りではあるがカリカリした感じは無く、ポートレートには向いている。
ボケにクセは感じられず滑らか。
状況説明を兼ねた背景の演出には、広角でのポートレートは無理が生じない。モデルの“浮き上がり”感を邪魔しない程度のボケにすることがポイントだ。
キヤノンEOS70D 絞りF2.8 1/100秒 ISO200 WB:マニュアル RAW 20mm域
背景を大きく傾け、さらに広角の歪曲性を生かした構図で奥行きを極端に作り出した。やや絞ることで、モデルにはシャープ感を与え、大きくボケて明るい背景と対比させることで、モデルの存在感を演出している。
キヤノンEOS70D 絞りF3.5 1/50秒 ISO250 WB:マニュアル RAW 17mm域
窓からやさしく入る光を、照らされている壁とともに、大きく取り込む。
同時に感じる静けさを、レンズを通して表現。
モノトーンに近い背景の中、鮮やかなブルーの衣装が映える。
でもその静寂さは揺るぐこと無く、見るものを引きつける。
キヤノンEOS70D 絞りF2.8 1/250秒 ISO400 WB:マニュアル RAW 20mm域
ストロボ1灯、メリハリを効かせたライティングでオトナの女性を演出。
11-20PRO DXなら、背景を大きく取り込めみながらの構図決定が出来る。
彼女がソファに寝そべる姿の変化を見ながら、都度ズームリングを動かして調整。気持ちよく収まると、感動すら覚える。
キヤノンEOS70D 絞りF7.1 1/100秒 ISO100 WB:マニュアル RAW 16mm域 ストロボ使用
彼女にちょっと近づいてみる。
広角レンズでの寄りのカットは、思い切りが重要。それでないと、被写体との距離感が縮まらない。ちょっと挑発したかのようなまなざし、でも少しじらすような雰囲気が、広角レンズでの撮影で表現できる。
ここでの絞りはF4.5。
シャープさが一気に冴えてきた。シャドウの効いた、こうしたライティングの時は、このくらいの絞りがピタリとハマる。
キヤノンEOS70D 絞りF4.5 1/200秒 ISO100 WB:マニュアル RAW 13mm域 ストロボ使用
彼女が部屋の中を自由に走り回る。僕はそれを追いかけながらシャッターを切る。フワッと広げたスカート、動きも出したくて、低速シャッターになることを承知のまま、この設定で続ける。
広がりを余すこと無く構図内に収められるので、動きのあるポートレートは広角レンズのほうが、僕は好きだ。
キヤノンEOS70D 絞りF2.8 1/25秒 ISO100 WB:マニュアル RAW 17mm域
ちょっとお茶目な一面。
スカートの短さを気にすること無く。ドキッとしてしまうのはむしろこちら。でも照れを見透かしたかのように、大きな笑顔でこちらを振り向いた。
11-20 PRO DXはこうして動きをおいかけながらの室内撮影では、もってこいの焦点距離だと実感する。
キヤノンEOS70D 絞りF2.8 1/160秒 ISO640 WB:マニュアル RAW 14mm域
座りながらいたずらに笑う彼女が眩しい。
アイポイントから見下ろすように構え、その座り姿を、ソファとその様子とともに切り取ってみる。白い肌に赤の衣装がポイントになっている。ワイド側11ミリで。この距離で無理なくあぐら座りの姿を構図内に収められるのが、広角レンズでポートレートを撮る面白みの一つだ。
キヤノンEOS70D 絞りF2.8 1/160秒 ISO640 WB:マニュアル RAW 11mm域
翳りのあるライティングのなか、白い衣装の彼女がフワッと浮かび上がる。退廃的なイメージ、でも清楚さを感じさせながら、アンバランスさを表現。
F2.8のボケはとても自然に、見るものをこの場に引き込む錯覚を与えてくれたに違いない。
キヤノンEOS70D 絞りF2.8 1/100秒 ISO400 WB:マニュアル RAW 20mm域
テレ側20ミリで撮影。35ミリ換算だと約32ミリほどになるが、これならここまで自然な距離感を演出したポートレート撮影が可能になる。
従来の16ミリでは物足りなかったところを、見事補ってくれた。瞳に写り込んだ窓外の景色にシャープさを感じるが、固さは全くない。肌の質感も申し分無く、開放F2.8から安心してポートレートでは撮影できる。
キヤノンEOS70D 絞りF2.8 1/500秒 ISO400 WB:マニュアル RAW 20mm域
印象的な扉の前で。ちょっとすねたような表情に可愛らしいポーズがキュートだったので、全身カットで撮影してみた。
やや低めのアングルから、スマートにおさまるように構図を決めてみた。
キヤノンEOS70D 絞りF2.8 1/125秒 ISO400 WB:マニュアル RAW 14mm域
この日の終わりは横浜で。日没直後の、だんだんと夜の空の色が迫る街並を背景に、切なく空を見上げる彼女を黙って撮影。F2.8の大口径は本当に心強い。
やや感度は高くなったが、手持ちでさりげなく。多分彼女の気がついていない間のシャッターだ。
キヤノンEOS70D 絞りF2.8 1/50秒 ISO400 WB:マニュアル RAW 12mm域
もうすぐ夜がやってくる、そんなトライライトタイムで。11-20PRO DXなら、自然な距離感から、背景を大胆に取り込んだカットへすぐに移行できる。
電灯を背に、切なさを見せた彼女をあえてシルエットにした。でも夜はこれから。次の顔が楽しみになった。
キヤノンEOS70D 絞りF5.0 1/6秒 ISO400 WB:マニュアル RAW 13mm域 一脚使用
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