美術鑑賞を劇的に変えてくれる必携アイテム単眼鏡
美術鑑賞を劇的に変えてくれる必携アイテム単眼鏡
<プロフィール>
中村剛士(なかむらたけし)
Takの愛称で「青い日記帳」主宰。展覧会レビューをはじめ、幅広いアート情報を毎日発信。goo「いまトピ」、JR東日本「びゅうたび」、「楽活」などにコラムを連載。『いちばんやさしい美術鑑賞』(筑摩書房)、『カフェのある美術館 素敵な時間をたのしむ』(世界文化社)、『フェルメール会議』(双葉社)、『フェルメールへの招待』(朝日新聞出版)、『美術館の手帖』(小学館)など執筆・編集。『文藝春秋』書評寄稿など、各種講演・執筆活動など、幅広く活躍中。
一度見た映画やドラマでも別の機会に再び鑑賞すると一度目には見逃していた場面や台詞と出会い、ハッとさせられるような新たな感動があるものです。その時の気分や置かれたポジションによってどこに関心がいくかは人によって微妙に違ってきます。
実は一枚の絵にもそれと同じような感動が待っています。それがたとえ見慣れた絵画であったとしても新たな「気づき」に逢着し展示室で大きな喜びを得られます。
その「気づき」の大きな力添えとなるのが単眼鏡「Kenko ギャラリーアイ」です。
これまで、単眼鏡を使って絵画鑑賞をした経験はありますか?自分も美術館通いをはじめたころは「道具」の手助けを借りずに自分の「目」だけで観ることが一番だと固く信じていました。
ところが、とある美術史家の先生と作品を一緒に観る機会に恵まれた際に、初めて単眼鏡の「威力」を知ることになったのです。京の都の生き生きとした様子を描いた「洛中洛外図屏風」の真の魅力を理解するには裸眼ではその半分も享受できていないことを実体験として得たのです。
単眼鏡を通して観る「洛中洛外図屏風」は、都人たちの姿が子細に描かれ、まるで話し声が聞こえてくるかのようでした。また神社仏閣などの建物の屋根の表現など、これまで見えていなかったものが次から次へと小さな単眼鏡を通して自分の脳内に新たな刺激と感動を与えたのです。
それ以降、単眼鏡(時に双眼鏡)は展覧会へ出かける際に必携品となりました。これまで幾つかの単眼鏡を買い替え使ってきましたが、現在は美術鑑賞用に特化して作られた「Kenko ギャラリーアイ」を相棒として持ち歩いています。
単眼鏡をあまり使ったことのない方に実際の使用感をお伝えして参りたいと思います。折角ですので、西洋美術は国立西洋美術館、日本画は山種美術館さんへ「Kenko ギャラリーアイ」を携えて行って参りました。さて、観たことのある作品からどのような「気づき」に出会えるでしょう。
国立西洋美術館
いまさら、説明の必要もありませんが、中世末期から20世紀初頭までの高いクオリティーの西洋美術作品をたっぷり堪能できる、駅から徒歩1分の好立地にある美術館です。また最近では国立西洋美術館の建物が「ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-」として世界文化遺産に登録されたことでも熱い注目を集め多くの来館者で賑わっています。
クロード・モネ「睡蓮」
材質・技法:油彩、カンヴァス
所蔵先:国立西洋美術館 松方コレクション
国立西洋美術館の「CAFÉ すいれん」の名前の由来ともなっている、館を代表する多くの人に愛されている作品です。このモネの「睡蓮」をお目当てに国立西洋美術館へ来られる方も多くいらっしゃいます。
印象派のリーダー的存在であったモネは「睡蓮」を繰り返し描き世界中の美術館に所蔵されています。その中でも縦横2メートルを超える国立西洋美術館の「睡蓮」は鑑賞者をジヴェルニーへ誘ってくれるかのような錯覚にさせる深い魅力をたたえています。20年近くに渡り繰り返し描いてきたテーマだけあり作品に抜群の安定感がある一枚です。
では、 近くによって見るとどうでしょう。これが驚くことに筆使いはとても大胆(荒く)、ある部分だけ観るとまるで現代アートのようです。それは単眼鏡を使うとさらにその傾向が強くなります。離れて全体を観ると美しい睡蓮の花咲く池。ぐっと近寄ると現代アート。こんなに振れ幅の大きな作品もそうそうお目にかかれません。
何故このような描き方をしたのでしょうか。それはこの「睡蓮」はモネが晩年になって描いたもので既に目の病気を患い視力が極端に衰えた頃の作品だからです。細かな表現が難しくなっても移り行く光を追い求めキャンバスに描いたモネの画家魂が感じられる荒い筆致を単眼鏡でじっくりと鑑賞してみましょう。モネのイメージがきっと変わるはずです。
ダフィット・テニールス(子)「聖アントニウスの誘惑」
材質・技法:油彩、カンヴァス
所蔵先:国立西洋美術館
中央に悪魔の誘惑を受ける聖アントニウスが描かれていますが、ヒエロニムス・ボスから影響を受けたであろう奇怪な魔物たちにどうしても目が行きます。
空中にも魚にまたがった魔物が戦いをしているような、じゃれ合っているような...なんともユニークな場面が描かれています。主題を知らなくても楽しめる作品として国立西洋美術館へ来ると必ず絵の前で長い時間をかけ観てしまう作品です。
さて、魔物たちを単眼鏡で観ることに一段落ついたら、 画面右に描かれた蝋燭に注目してみましょう。裸眼では見えませんので是非ここは単眼鏡の力を存分に発揮させ蝋燭の火、それとその先にかすかに表現された煙を見逃さないように。スターウォーズに登場するような魔物たちだけでなく、髙島野十郎が繰り返し描いた「蝋燭」と比べてみたい衝動に駆られる蝋燭の炎そして煙に注目してみて下さい。
グエルチーノ(本名ジョヴァンニ・フランチェスコ・バルビエーリ)「ゴリアテの首を持つダヴィデ」
材質・技法:油彩、カンヴァス
所蔵先:国立西洋美術館
拙著『いちばんやさしい美術鑑賞』(筑摩書房)でも初めに取り上げた作品です。名前はほとんど聞いたことのない作家でしょうが、カラバッジョの影響が観られるドラマティックな表現は知識を持たずとも圧倒されます。
全体の迫力を感じたら、単眼鏡で天を仰ぐ ダヴィデの左手にフォーカスしてみましょう。討ち取ったゴリアテの生首をその手でつかんでいる様子を単眼鏡で拡大して観ると手の甲に浮き出た血管や皺の様子にハッとするはずです。そして勇ましくゴリアテの髪を握っているのではなくコンビニの買い物袋をつまんでいるかのようなどことなく弱々しい雰囲気に自分には観えます。
拡大して観ることで、そこの部分だけに注目が行くので情報量が絞りこまれ、結果として全体で観た時には感じなかった別の感想を得られるのです。これは西洋絵画で単眼鏡を使う一番のメリットと言えるでしょう。
また、私は視力が弱いので普段はコンタクトレンズを装着していますが、春先花粉の飛散する季節となるとコンタクトレンズの代わりに眼鏡をかけ展覧会へ出かけることになります。眼鏡を使用していると単眼鏡のレンズとの距離が生じてしまい裸眼やコンタクト時とくらべ違和感を覚えるようになります。そんな時でも単眼鏡「Kenko ギャラリーアイ」は眼鏡をかけたままで変わりなく使えるのです。メガネ女子、メガネ男子にとってもやさしいつくりとなっています。(実際に眼鏡をかけて国立西洋美術館のグエルチーノ「ゴリアテの首を持つダヴィデ」を「Kenko ギャラリーアイ」で隅々まで観てきました。)
制作年:紀元前4世紀後期
材質・技法:ガラス、金
所蔵先:国立西洋美術館 橋本コレクション
国立西洋美術館常設展には絵画の他にも神々の時代から現代まで充実したコレクションを誇る指輪の展示や、版画、彫刻なども展示されています。単眼鏡を通してこれまで見逃していた部分にどれだけ「気づけ」るのか楽しみですね。
国立西洋美術館
住所 | 〒110-0007 東京都台東区上野公園7番7号 |
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交通 | JR上野駅下車 徒歩1分 |
開館時間 | 9:30~17:30 金・土曜日 9:30~20:00※入館は閉館の30分前まで ※その他、時間延長期間があります。 詳しくはhttp://www.nmwa.go.jp/jp/visit/ |
休館日 | 毎週月曜日および年末年始(12月28日−翌年1月1日) ・月曜日が祝日または振替休日の場合は開館、翌日休館 ・その他、臨時に開館・休館することがあります。 |
常設展観覧料 | 一般個人500円 大学生個人250円 高校生以下および18歳未満と65歳以上の方は無料(企画展は別料金) |
サイトURL | http://www.nmwa.go.jp/ |
山種美術館
訪日外国人観光客の数は日を追うごとに増加の一途を辿っています。そんな彼らから「日本画が観たい」とリクエストされたらどこへお連れしますか。自分なら迷うことなく東京・広尾にある山種美術館へお連れします。1966年に日本初の日本画専門の美術館として開館しただけあり、いつ行っても質の高い日本画を存分に味わえるからです。
単眼鏡の真の実力が発揮されるのが日本画であり、日本画をきちんと鑑賞するためには単眼鏡は無くてはならない存在なのです。たまに単眼鏡を忘れて行ってしまいことがありますが、その時の後悔たるや... さて、実際に幾つかの作品を観ながらその実力・威力を見ていくことにしましょう。
速水御舟「名樹散椿」【重要文化財】
岡田准一さん主演の映画「散り椿」の原作本表紙を飾っているこちらの名画。写実と装飾を融合した画風で遠くから見たり、webなどで画像として見るのでは大きな違いがあります。金地は金砂子(きんすなご)を何度も撒いて整える撒きつぶしという大変手間のかかる技法が用いられており、金を用いながらも敢えて光沢を抑えています。
椿の花ものっぺりとした印象しか印刷やモニターの画像からは伺えませんが、展示室で絵の前に立ち 単眼鏡でぐっと近寄って観ると京都・昆陽山地蔵院で実際に五色の八重散り椿を観察し描いたことが、色の微妙な濃淡や、ひとつひとつ丁寧に描き分けられた個性美あふれる椿の花から伝わってきます。
どこか浮世離れしたような「名樹散椿」も単眼鏡を用いることで、とてもリアルな存在へと変貌を遂げるのです。
速水御舟「昆虫二題 葉蔭魔手・粧蛾舞戯」
大きな蜘蛛がヤツデに巣を張っている「葉蔭魔手」は単眼鏡で観ないと肝心な蜘蛛の巣の描写を十二分に堪能できません。
御舟のこだわりが 蜘蛛の巣にも現れており、巣の糸にはプラチナ泥(若しくは銀泥を塗ったうえに雲母(きら)を用いて輝きを出している)が用いられています。白とは違う色を見逃さないためにも単眼鏡は必須です。
もう一方の「粧蛾舞戯」は御舟の代表作である「炎舞」の翌年に描かれた妹分的な一枚です。
幻想的でカラフルな蛾の翅を単眼鏡で拡大するとそれぞれが、平安時代に作られた「伊勢集断簡(石山切)」のような美しさで迫ってきます。昆虫、特に蛾が苦手な方も翅だけを単眼鏡で是非のぞいてみてみましょう。
横山大観「燕山の巻」
日本美術では壁に掛けてある作品だけでなく、展示ケース(のぞきケース)に入れられた絵巻物などを上からのぞいて観る場面が多くあります。そうした場合、自分の頭でどうしても作品に影がかかったり、そもそも作品保護のために照度を極端に落としているのが常です。単眼鏡に求められる性能として、拡大して観られることだけでなく明るさというのも選ぶ際の大事なポイントとなります。
「Kenko ギャラリーアイ」は、現在国内で販売されている美術鑑賞用の単眼鏡の中で最大級の明るさを誇っています。自分が選んだのも実はこの明るさに惹かれたからです。浮世絵などの展示室の照度は更に暗く設定してありますが、「Kenko ギャラリーアイ」を使うと全くその暗さを感じることなく、通常の明るさで作品の細部に迫れます。
さて、のぞきケースに展示してある大観「燕山の巻」をまずは裸眼で全体を俯瞰するかのように観てから細部を単眼鏡で細かに観て行くと、中国を旅した際の記憶が丁寧に水墨で表現されていることが分かります。人々の動きや店先のようすなど異国の見知らぬ地での賑やかな往来が耳に宿ってくるかのようです。
他にも垂らし込み表現をこれでもか~と多用している前田青邨や剃刀のように鋭い線が効いている小林古径、下村観山「 不動明王」など、数多くの「気づき」に単眼鏡があれば出会えます。
山種美術館
住所 | 〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36 |
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交通 | JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分 |
開館時間 | 午前10時から午後5時(入館は午後4時30分まで) |
休館日 | 毎週月曜日(祝日は開館、翌日火曜日は休館)、展示替え期間、年末年始 |
入館料 | 一般1000円、大学生・高校生800円、中学生以下無料 |
サイトURL | http://www.yamatane-museum.jp/ |
展覧会年間スケジュール | http://www.yamatane-museum.jp/exh/schedule.html
作品の展示予定は山種美術館HPまたはハローダイヤル(03-5777-8600)でご確認ください。 |
今まで見慣れた作品だからこそ新たな発見があった時の驚きと感動は計り知れないものがあるのです。それは旧友の秘密を知ってしまった時のドキドキ感に似ています。
たくさんの「気づき」に出会う為の必携アイテム「Kenko ギャラリーアイ」を鞄に入れたら、さぁまずはどの美術館・博物館へ出かけましょうか。小さく軽い一個の単眼鏡が、あなたの絵画鑑賞を大きく劇的に変えてくれることでしょう。