SAMYANG AF 60-180mm F2.8 FEで撮るシネマティックポートレート by タキグチマサシ

SAMYANG AF 60-180mm F2.8 FEで撮るシネマティックポートレート by タキグチマサシ

普段は、街の光や空気感を活かしたポートレート撮影をしている。
特に夕方から夜へ変わっていく時間帯は、人物だけでなく、その場の温度や湿度、光の密度まで写真に写し込みたくなる。風が皮膚に触れる感覚、遠くで鳴っているサイレンの残響、そういうものまで一枚の中に閉じ込めたい。----そう思いながらシャッターを切っている。

今回使ったのは、SAMYANG AF 60-180mm F2.8 FE。
ロケ地は千葉ポートタワー周辺から千葉駅周辺まで。昼から夕景、そして夜へと移り変わる街の中で、一日かけてこのレンズを試した。

Schneider-Kreuznachについて

撮影の話に入る前に、少しだけブランドの話をしておきたい。
Schneider-Kreuznach----通称「シュナイダー」は、1913年にドイツで創業した光学メーカーだ。一般的な写真用レンズにとどまらず、大判・中判カメラ用レンズ、シネマレンズ、工業用・医療用・マシンビジョン用の光学製品まで、高い精度が求められる幅広い分野で実績を積み重ねてきた老舗だ。

シュナイダーの描写を一言で表すなら、忠実で自然だ。強い個性や色づけを加えるというよりも、被写体が持つ色・質感・形・階調をできるだけ正確に記録することを重視している。高い解像力、画面周辺まで安定した描写、色収差や歪曲収差の抑制、ニュートラルな色再現と自然な階調。そしてどこか主張しすぎない滑らかなボケ。それがシュナイダーの光学哲学だと考える。

よく比較されるLeicaやZeissとSchneiderを設計思想で整理するとわかりやすい。
ライカを「感情を写すレンズ」、ツァイスを「切れ味を楽しむレンズ」と表現するなら、シュナイダーは「素材を忠実に残すレンズ」と言える。人物や場の雰囲気を印象的に見せるライカ、建築や金属の細部の存在感を強く引き出すツァイスに対し、シュナイダーは被写体の色や質感をニュートラルに記録することを得意とする。

ポートレートに置き換えると、肌を必要以上に演出するのではなく、髪、目元、衣服の質感を丁寧に描きながら、撮影後のRAW現像で撮影者自身の色を乗せやすい描写とも言える。完成された色を与えてもらうのではなく、素材を渡してもらって自分の世界観へ仕上げていく。そういう作品制作と相性がいいレンズだ。

そのSchneider-KreuznachとLK Samyangが共同開発したのが、ソニーEマウント向けのフルサイズ対応ズームレンズシリーズだ。「小型・軽量」と「高い光学性能」の両立をテーマに、14-24mm F2.8・24-60mm F2.8・60-180mm F2.8の3本が展開されている。3本合計でも約1.67kgに抑えられており、F2.8通しのズームを複数持ち歩くシステムとしては異例の軽快さだ。
シュナイダーが得意とするニュートラルで高解像な描写と、SAMYANGが培ってきた小型化やAF技術----その組み合わせが、今回試したAF 60-180mm F2.8 FE8に込められている。

このレンズは取り回しがいい!

全域F2.8の望遠ズームでありながら、重量は約730g。長さも60mm時149mmで、一般的な70-200mm F2.8よりかなり持ち歩きやすい設計。これだけ心躍る方も多いのではないだろうか。ポートレートを撮るとき、一般的な70-200mmf2.8を持ち出そうとするが大きすぎて持っていかない人は多いはず。

SAMYANG AF 60-180mm F2.8 FEなら、60mmの自然な距離感から180mmの強い圧縮感まで、焦点距離の幅はは多少制限されるがこの重さ・サイズなら持っていこうとなるはずだ。正直に言うと、f2.8で180mmまであるレンズにしては想像より軽快だった。手元にある70-200mm F4のレンズと並べると、サイズも重量もかなり近い。「もっとズッシリしてるかな」という先入観はあっさり裏切られた。一日持ち歩いても疲れは蓄積せず、ボディとのバランスも悪くない。操作もシンプルで、難しいことを考えずにすぐ撮り始められる。

AFについては、正直なところよりスムーズなレンズはある。ただ、速さという点ではほとんど引けを取らない。夜の撮影でも迷いすぎて表情を逃すような場面はほとんどなかった。

描写はシャープだが硬くない----というより、柔らかい。他の同等クラスのレンズと比べると、解像感で勝負するというよりも、空気感を残しながら写す方向の味付けだと感じた。エッジはしっかり立つのに、画全体に漂うような柔らかさがある。ボケは圧縮と組み合わせると本当に美しく、夜景ポートレートではとくに効いてくる。

シーン別に使ってみた

海沿い / 60mm ----「環境ごと切り取る」

最初は海沿いで60mmを中心に使った。
このレンジは、背景を適度に取り込みながらも人物との距離感が自然で、「ここで撮った」という場の空気をそのまま残せる。60mm付近では木漏れ日や周囲の緑が自然に画角に入り、環境描写としてとても気持ちがいい。

α7RⅤ / 1/2000 / F2.8 / ISO100 / 60mm
α7RⅤ / 1/2000 / F2.8 / ISO100 / 60mm
α7RⅤ / 1/400 / F2.8 / ISO100 / 60mm

海沿い / 180mm

このロケで一番「このレンズにして正解だった」と感じたのがここだ。
180mm側で撮ると、海面の光が圧縮されて密集し、背景全体が映画のフレームのような密度になる。人物の輪郭にそっと光が乗り、その後ろで海が"面"としてひとつにつながる。単に望遠で撮ったというより、光と空間の密度をデザインしているような感覚があった。
それに、被写体から距離を取れるぶん、こちらのカメラを意識させずに表情を引き出しやすい。レンズを向けられていることに気づかれにくいのは、ポートレートにおいてかなり大きなアドバンテージだ。ボケも滑らかで柔らかい。

α7RⅤ / 1/2000 / F2.8 / ISO100 / 180mm
α7RⅤ / 1/2000 / F2.8 / ISO100 / 180mm

夕陽・逆光

逆光は、レンズの素性が出る場面だ。
結論から言うと、印象は良かった。夕陽のハイライトが柔らかく広がりながらも、人物の輪郭はしっかり残る。フレアもしっかり抑えられており夕景のムードを強めてくれる。肌の階調も綺麗で、髪の透け感も解像もきれいに表現された。
特に180mm側では、背景が圧縮されてボケも大きくなるので、太陽を"背景の一部"として使う夕景ポートレートとの相性は抜群だと思う。

α7RⅤ / 1/125 / F2.8 / ISO100 / 180mm
α7RⅤ / 1/400 / F2.8 / ISO100 / 88mm

夜の街 ---- このレンズが本領を発揮する時間

夕方から夜に変わる時間、このレンズは本当に気持ちよく動いてくれた。
所有している70-200mm F4 のレンズと比べると、F2.8は1段明るいので、

  • シャッター速度を約2倍にできる
  • ISO感度を約半分にできる
  • 背景をさらにぼかせる

という明確なメリットが得られる。夕暮れ、ネオン、街灯など、光量が落ちてからも雰囲気を壊さず撮りやすい。
点光源が背景で密集し、街の光が面としてつながっていく。100〜180mmでは、ネオンや街灯の玉ボケが重なり合い、人物の後ろに光の層ができる。その中に立つ被写体は、現実の街にいながら映画の一場面のように見える。
サードパーティながら手ぶれ補正もしっかり効いており、かなりシャッタースピードを落としてもしっかりと止まってくれていた。

α7RⅤ / 1/60 / F2.8 / ISO800 / 60mm
α7RⅤ / 1/60 / F2.8 / ISO800 / 124mm
α7RⅤ / 1/40 / F2.8 / ISO800 / 60mm

使ってみてよかったこと、気になったこと

よかった点

  • 60mm始まりが意外と使いやすい
    一般的な70-200mmより10mm広い60mmから始まるため、狭い場所でも全身や環境を入れやすくなっている。
    60mmで街の空気を入れ、85〜135mmで自然なポートレート、180mmで背景を大きく圧縮するという流れをレンズ交換なしで作れる。75mm、85mm、100mm、135mmといった定番の人物撮影域を一通りカバーする。
  • ボケと人物描写がきれい
    長い焦点距離の圧縮効果とF2.8を組み合わせることで、背景を整理しやすく、ボケも柔らかめだ。肌の描写、自然な色、背景の滑らかさには、シュナイダーらしさがにじむ。
    解像感を押し出すというより、人物と背景の距離感をきれいに見せるレンズという印象だ。
  • かなり寄れる
    最短撮影距離は、60mm:0.35m、最大0.26倍/180mm:0.79m、最大0.21倍。
    顔や全身だけでなく、手元、アクセサリー、衣装のディテール、料理や花なども撮りやすい。
    ポートレート撮影中に「目元→手元→衣装→全身」と切り替えられるのは便利だ。
  • AFは通常の人物撮影なら十分速い
    リニアSTMを搭載し、瞳AFにも対応。α7R Vとのテストでは、静止したモデルや通常の歩き撮影なら、ほぼ問題にならないレベルだ。

こんな人に向いている

夜のストリートポートレートを撮る人、夕陽と人物を組み合わせたい人、映画的な圧縮感や光の密度にこだわりたい人。明るいレンズなのに軽量なレンズが欲しい----そういった人には、このレンズはかなり刺さると思う。
また、「自然な表情を撮りたいけど、近づきすぎるのが苦手」という人にも向いている。距離を取りながら自然なショットを狙える設計は、ポートレート撮影のハードルを下げてくれる。

まとめ

SAMYANG AF 60-180mm F2.8 FEは、全域F2.8の描写力を持ちながら、約730gという軽さで持ち出せるレンズだ。70-200mm F2.8を持っていくか迷って結局置いていく。
そんな経験がある人ほど、このレンズの価値がわかるはずだ。
60mmで環境を活かし、180mmで場面を圧縮する。焦点距離の幅は多少制限されるが、それを補って余りある取り回しの良さが、鞄に入れる決め手になる。
海沿いの開放感、夕陽の逆光、夜のネオン----
シーンが変わっても、このレンズが持つ圧縮感と光の扱いは一貫して味方になった。背景をまとめ、人物を静かに浮かび上がらせる。そのプロセスを、身軽な装備のまま一日中楽しめたのは、このレンズならではだ。
もっと"映画的な一枚"を撮りたい。そう思っている人に、自信を持っておすすめできる一本だ。

モデル:大槻なる https://x.com/naru_runa_88)

この記事で紹介された製品

SAMYANG AF 60-180mm F2.8 FE

SAMYANG AF 60-180mm F2.8 FE

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タキグチマサシ

1978年、茨城県生まれ
光と影・構図による感情表現をテーマに活動するフォトグラファー。
都内を中心にストリートフォトなどの実践ワークショップ、フォトウォークを開催。
「Enjoy Photography, Enjoy Yourself.」をモットーに、技術論に偏るのではなく、"光を見る感覚"を育てるスタイルが支持されている。