映画『麻雀放浪記2020』~全編をiPhoneだけで撮影した仰天プロジェクト~
2019年、話題になったあの「麻雀放浪記2020」の撮影を担当したシネマトグラファー・馬場元氏をインタビューしました。その内容をご紹介します。
馬場:映画「麻雀放浪記2020」の撮影を担当しました馬場 元(ばば はじめ)です。よろしくお願いします。
---この映画は全編iPhoneで撮影されていますが、そもそもなぜiPhoneで撮影しようということになったのですか?
馬場:そうですね、まず映画の内容についてなんですが、原案となっているのは阿佐田哲也さんの大ベストセラー小説「麻雀放浪記」です。大変有名なのでご存知の方も多いと思います。敗戦後の東京で麻雀に打ち込む若者・坊や哲がさまざまな勝負師たちと出会う中で人生を学んでゆく成長の物語です。以前に和田誠監督が映画化していて、こちらも映画史にその名を残す素晴らしい作品でした。
馬場:今回再び「麻雀放浪記」を映画化するという企画が出た時に、その名作映画がありながら同じことをする意味があるのか?となったようです。『麻雀放浪記2020』はリメイクではな く原作の精神を受け継ぎながら内容を大胆にアレンジ、全く新しいものを目指して制作がスタートしました。本作をご覧になった方はわかると思うのですが、主人公が近未来にタイムスリップしたり、アンドロイドが登場したり、これ本当に「麻雀放浪記」なの?という風なお話になってます。iPhone撮影については白石和彌監督から提案されました。この映画をいままでの映画のようなルックにはしたくないこと。ポップな感じを狙いたい。監督はiPhoneで撮影することで作品にそういう雰囲気が生まれると信じていました。
---馬場さんの役割は?
馬場:カメラマンとして監督のイメージを映像化することです。現場では照明や美術、VFXといったいろんなパートと連携し、完成まで一貫して画に責任を持ちます。
---初めての試みということで、さてどうするか?ということになった訳ですね?
馬場: 面白い試みだとは思いましたが、iPhoneは業務用カメラではないですから、本当にこれで映画が撮れるのかということは心配でした。映像がきちんと収録できるのか、現場で 録音した音がちゃんと画とシンクロするのか、そういう映画用カメラでは当たり前の部分をひとつずつ検証するところから始めました。
---スマホの準備から周りの機材の選定まで、すべて馬場さんがやられたんですね?
馬場:iPhoneで撮影することは決まっていましたが、それ以外の機材選び、撮影から仕上げまでのワークフローの検証など、映画のクランクインまでに僕が中心となって準備することになります。
---準備するときに大変だったことはありますか?
馬場:機材選びはゼロからのスタートでしたからね。いつも使っている機材レンタル会社には置いてませんし。インターネットでガジェット系のものとかコツコツ調べてました。そこ で良さそうなものが見つかっても海外でしか取り扱いがなかったりして、実機に触れることが出来ず大変苦労しました。今回、制作協力をしていただいたAppleさんで、iPhoneで使える動画撮影用の機材について紹介してくれたのですが、そこで初めてBeastgripを知りました。
---実際Beastgripを見て、検証して、これなら使える!と判断したのはどんなところでしたか?
馬場: Beastgripが良いのは軽くて持ちやすいこと、それにiPhoneのつけ外しがとても簡単にできる点ですね。現場には20台もiPhoneがありましたけど、組み立て式のものを使っていたら取付けるだけで時間がかかって大変だったと思います。カットによってはiPhone単体で撮影したいときもありましたし。あとアナモレンズが付けられることです。この映画はiPhoneで撮ってるのに、スクリーンサイズはシネスコなんです(笑)。Beastgrip 1.33×アナモルフィックレンズを使うことで画を圧縮して画質を確保できる、そこにもすごく魅力を感じました。
---三脚を使うのと手持ちとどちらのウエイトが大きかったのですか?
馬場: 半々ですね。手持ち撮影の時はBeastgripが軽くて持ちやすかったので楽でした。画の揺れが気になってしまうところはスタビライザーを使っています。今回はWenPodを使いましたがBeastgripとの相性は良かったです。
---実際に撮影に使った機材は?
馬場: Beastgrip本体にiPhone8 plus、Beastgrip1.33x アナモルフィックレンズ、Beastgrip×Kenko Pro Series 0.75Xワイドアングルレンズ、NDフィルター、PLフィルターです。
---実際に映画を撮りきった後で振り返って、iPhoneで映画を撮影するという試みはいかがでしたか?
馬場:なかなかのチャレンジでしたけど、それなりの成果はありました。白石監督がおっしゃっていた今までの映画とは違う映像の雰囲気みたいなものは、やはりiPhoneだから出せたんだと思います。色味や明るさといった画の質感だけでなく、iPhoneだからこそ可能なアングル、役者さんとの距離感、そういったものが合わさってこの映画に良い効果が出せたと思ってます。
---夜間など、暗い場所での撮影は?
馬場:ライティングをしていますので特に問題はありませんでした。iPhoneの感度設定を高くし過ぎないよう気をつけて撮影しています。
---今回iPhoneで撮影してみて、今後このようなスマホで映画撮影ということは成立すると思いますか?
馬場:はい、本作で実証しております(笑)。もちろん今回現場で問題がなかった訳ではありませんけど、そういう部分は将来的にアップデートされて、もっと使いやすくなるんじゃないかと思います。そうなれば映画制作でスマホの採用を検討する人も増えるのではないでしょうか。
---アメリカ、ヨーロッパではインディーズなど、スマホを使って撮影されることが多くなってきていますが、日本ではどうなのでしょう?
馬場:作品内容にもよりますけど 、今のスマホは選択肢としてあるんじゃないですかね。日本でも従来とは違う方法で撮影してみようという柔軟な発想を持った人は結構いると思います。
---今回のiPhoneでの映画撮影の経験から、今日本で勉強中の若い映画・映像クリエーターに向けてアドバイスをお願いします。
馬場:今回 iPhoneで撮影をして強く実感したのは、機材がどう変化しても映画作りに携わるカメラマンとして、やってることの本質に変わりがないという事でした。高額な業務用カメラでもiPhoneでも、作り手としてそれで何を撮るのかが一番大事です。 若い方は機材に力を入れるより、スマホとか手軽な機材でいいので撮りたいものをどんどん撮ってほしいなと思います。
映画『 麻雀放浪記 2020 』Blu-ray&DVD 2019 年 8 月1日(木)発売
ビーストグリップについて:http://beastgrip.jp
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