【実写レビュー】素晴らしい描写に美しいボケと、これだけの写りを提供してくれるSAMYANG XP50mmF1.2

萩原 和幸

萩原 和幸 (はぎわらかずゆき)

1969年静岡生まれ。
静岡大学人文学部法学科及び東京工芸大学写真技術科卒業。 写真家・故今井友一氏に師事。主に広告を中心にファッション撮影を学ぶ。独立後は広告・雑誌にて人物撮影で活動。カメラ専門誌にも寄稿多数。近著に写真集『記憶(モデル:藤江れいな)』(玄光社)、『プロが撮影で疎かにしない・ポートレート撮影の三原則』(秀和システム)、『ポートレート撮影レフ板ライティング完全マスター』(玄光社)など。(公社)日本写真家協会会員、静岡デザイン専門学校講師。

高コストパフォーマンスレンズを多くラインナップするサムヤン。私が実際に毎月1本ずつ撮影に持ち出し、萩原独自の評価と作例をお伝えしようというもの。

第6弾は、『XP 50mm F1.2』。
XP 50mm F1.2は、サムヤンの高性能レンズラインである"XP"シリーズにラインナップされた標準レンズだ。
"XP"シリーズは、5000万画素オーバーの超高画素カメラや8K動画撮影にも対応する高解像力を誇るシリーズ。現在はXP 10mm F3.5/XP 14mm F2.4/XP 35mm F1.2/XP 85mm F1.2、そして今回紹介するXP 50mm F1.2と、広角寄りからの拡充を図り、計5本がラインナップされている。

標準レンズと呼ばれる50 mm前後の画角のレンズは、古くから多くのレンズが存在し、また、メーカーがキットレンズとして売り出していた歴史からも、多くのユーザーに愛される最も馴染みのある画角と言えるだろう。標準的な開放値F1.4のレンズからF1.2クラスの大口径レンズ、F2クラスのコンパクトサイズにマクロレンズなど、選択肢はとても豊富。50mmは万能レンズと言われるだけに、多くのユーザーを惹きつけ、何本も使いたくなる実に興味深い画角だ。
そのような状況の中で、サムヤンは最高の画質を求めるユーザーへの提案として用意したのがXP 50mm F1.2だ。F1.2という大口径に開放から非常にシャープな描写と見事なボケ味、多くのユーザーを惹きつける要素を前面に押し出したレンズだ。

マウントはキヤノンEFマウントでマニュアルフォーカス。レンズ構成8群11枚。絞り羽根は9枚。フィルター径は86mm。今回の撮影では、カメラはEOS 5D Mark Ⅳで撮影した。

非常に大きなレンズサイズ。マニュアルフォーカス専用レンズでありながら、全長117.4mm、重量は1.2kgもある。開放値F1.2という大口径を加味しても大柄で、"5000万画素オーバー、8K動画撮影"に対応する高画質を提供するという、真摯な姿勢が見て取れる。デザインはシンプルで高級感漂う。

フードを装着する。大柄なフードで効果は大きい。ピントリングはMF専用とあり、幅広のラバー状になっていて指にとても馴染む。トルクはやや重めだがしっくりとくる。開放値F1.2なので、その被写界深度の浅さからピント合わせは慎重になるので、これくらいの重さでいいだろう。動画撮影でもしっくりくると思う。電子接点を装備しているので、絞りの設定はカメラ側から行う。

さっそく撮影に向かう。今回はスナップ撮影をしてみた。

Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f1.2 1/160秒) ISO800 WB:オート  RAW

夜の街に出かける。
雨の中、橋の欄干の濡れた質感が極浅のピント面から伝わってくる。街灯が大きくボケて美しい。まるで映画のワンシーンのよう。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f1.2 1/250秒) ISO200 WB:オート  RAW

イルミネーションの電飾は、大きな玉ボケとなって被写体を美しく盛り上げてくれる。これだけの大口径なので口径食は当然見られるが、それ程離れていない電飾が大きく玉ボケになるF1.2の力は大きい。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f1.8 1/125秒) -1.0補正 ISO1250 WB:オート  RAW

水溜りに落ちる紅葉、水の輝きが素晴らしい写りでうっとりする。雨による波紋も見事。水溜りに映ったイルミネーションも玉ボケになり、美しさに花を添えている。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f1.6 1/2000秒) -1.0補正 ISO2000 WB:オート  RAW

遠景を開放近くで狙ってみる。奥の橋にピントを合わせて、手前のなだらかなボケを楽しんでみた。大口径なので夜の街を撮影するのも面白い。街灯は大きな玉ボケになったり、色鮮やかなボケとなったり、被写体を浮かび上がらせる。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f2.0 1/125秒) +0.3補正  ISO250 WB:オート  RAW

工場見学にて。
紡績機の糸の繊細な質感が写真に閉じ込められる。電灯の玉ボケもきれいだ。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f2.0 1/160秒) -0.3補正  ISO1250 WB:オート  RAW

最短撮影距離で撮影。距離は0.45m。距離としては標準的だが、ボケが大きいのでコントロールが必要。それも面白さの一つで、ピントリングを動かしながら、ピント位置を確認する。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f1.2 1/400秒) -0.3補正 ISO200 WB:オート  RAW

エンブレムを開放で。金属の輝きが浅いピントの中で輝く。ファインダーの中でキラッとピント面が光る。マニュアルフォーカスならではの楽しみ方だ。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f2.2 1/160秒) -0.3補正  ISO3200 WB:オート  RAW

車内の狭い空間でも大きなボケにできるのが大口径レンズの良さでもある。ここではハンドルの全景を写したかったのでF2.2まで絞ったが、それでもこれだけのボケが味わえる。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f1.2 1/320秒) ISO200 WB:オート  RAW

計器の並びが可愛らしくて、シャッターを切ってみた。開放での描写はシャープだが、やや柔らかさを纏った描写。開放時のこの描写はこのレンズの旨みの一つだ。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f2.8 1/500秒) -1.0補正 ISO200 WB:オート  RAW

ピント面が際立つので、目についたものについついカメラを向けてしまう。ピントリングはゴム引きでとても指にフィットし、ピント合わせはとても良好。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f1.8 1/640秒) -1.3補正 ISO100 WB:オート  RAW

主たる被写体と背景との距離が少ない場面でも、ボケを得られるのが大口径の良いところ。このカットは手前の紅葉を背景の紅葉のボケで立体感を作ってみた。手前の石の上の紅葉がススッと上品に浮かび上がる。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f1.2 1/800秒) -1.7補正 ISO100 WB:オート  RAW

滝の前に架かる紅葉、水墨画をイメージしながら、儚さをボケに託す。 背景の滝が一筆の筋になり、ほのかに浮かび上がる紅葉が本当に美しい。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f1.2 1/1600秒) -1.7補正  ISO100 WB:オート RAW

絞りを開放で撮影する事で、遠景の中にもボケを作り、ピント面にある葉を浮かび上がらせることを狙ってみた。
大口径レンズはそれだけ被写界深度による表現の幅が広く設けられている。撮影してみることで見える標準が存在することは確かだ。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f1.2 1/1250秒) +0.3補正  ISO100 WB:オート RAW

最短撮影距離で絞り開放にて撮影。ピントの合った雌しべがスッと浮かび上がり、アウトフォーカス部分はソフトにボケる。ボケ味はとてもなめらかで美しい。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f2.2 1/160秒) -1.0補正 ISO400 WB:オート  RAW

光が乏しいシーンでも繊細に光を拾い上げてくれるのが大口径レンズの旨み。そうしたシーンで静かに流れる時間ともども捉えることができた。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f2.8 1/250秒) -1.0補正 ISO100 WB:オート  RAW

大正時代のランプが施されている洋館。そのランプのほのかな光と外光の明るさのバランスをとりながら。背景のボケ具合を絞りでコントロールする。ボケ具合の幅が大きいので、イメージに近い選択が可能だ。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f4.0 1/320秒) -1.0補正 ISO100 WB:オート  RAW

シャドウ部のトーンが豊富なので、このようなカットでは狙ったシャドウ部の畳や襖絵の繊細なタッチがジワリジワリと浮かび上がる。シャドウ部の深みは写真の深みそのもの。そのシャドウ部をしっかり写し出してくれる懐の深さを感じる。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f1.8 1/125秒) +0.7補正  ISO125 WB:オート RAW

シャンデリアの取り付け部の装飾に惹かれてレンズを向ける。このレンズは開放値近くでの描写は柔らかい。この装飾には時代も付いていて、キリッとした写りよりも柔らかな写りの方が似合うと判断した。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f1.2 1/160秒) -1.3補正 ISO100 WB:オート  RAW

洋館に架かるリースも、絞り開放の前ではより立体的に浮かび上がる。このシーンでは周辺光量落ちが良い感じにリースを際立たせるのに一役買っている。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f9.0 1/160秒) -1.3補正  ISO2500 WB:オート RAW

絞るとシャープに締まるので、こうした荘厳なシーンには、と思い絞ってみた。 実感ではF2からシャープさが目立ちはじめ、F5.6あたりがピークとなり、F11くらいまでの間、猛烈に素晴らしい写りを提供してくれる。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f2.2 1/160秒) -1.3補正 ISO160 WB:オート  RAW

ほのかな電球に照らされた内部の装飾を写し込みながらも、ステンドグラスの雰囲気を損なわないで写し込めた。このレンズの懐の深さを改めて感じた。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f1.2 1/320秒) -1.3補正 ISO100 WB:オート  RAW

手前の格子をあえて入れ込むことで、より寂しさ、冷たさ感じる雰囲気を引き立てる。邪魔にならず、でも格子を見せるには大きなボケが有効。このレンズの大きなボケのおかげでいい具合の格子のボケが作り出せた。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f2.0 1/320秒) -1.3補正 ISO100 WB:オート  RAW

50mmの良いところは、見たままの印象をそのまま写し込めるところ。立ち寄ったお蕎麦屋さんの、なんとも昭和で懐かしい雰囲気を、そのままに伝えることができた。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f11.0 1/250秒) -1.3補正  ISO100 WB:オート RAW

遠景を、絞りを絞って狙う。シャープではあるものの硬さはなく、自然なシャープさを感じる。遠景でありながら、このレンズの繊細な描写が見て取れる。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f10.0 1/125秒) +0.3補正  ISO400 WB:オート RAW

トタンから透ける光の柔らかさ、金属やロープの質感など、ここにある空気そのものを立体的に取り込めたような思いになった。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f1.2 1/1000秒) +0.7補正  ISO200 WB:オート RAW

時代を感じる通りにて。影にある立札で、その影にある湿っ気(編集注:湿気?あるいは湿りっ気?のことか?)も含めて写し込みたい。そんな欲求を絞り開放で叶えてくれた。


Canon EOS 5D Mark Ⅳ 絞り優先AE (f8.0 1/125秒) -0.7補正  ISO4000 WB:オート RAW

通りをぶらぶら歩きながら、目についたシーンを誇張なく素直に切り取るのが50mmの良いところであり楽しみ方のひとつ。


絞り優先AE (f13.0 1/160秒) ISO2500 WB:オート RAW

通り過ぎる時間とその時間に逆らうかのように止まる強さに敬意を表しながら撮影。


総評

非常に繊細で少し湿気を含んだような描写がとても印象的なレンズだ。シャープさは備えているものの、カリカリとした太い線ではなく、被写体の質感をそのまま写真に写し込むようなリアル感を上手に伝えてくれる。

開放からピントはしっかりとくるので、ついつい開放で撮影したくなってしまう。ファインダーを覗くと、大きく綺麗なボケで彩られた世界は全てがアーティスチックに見えてしまうほどの美しさだ。その美しさに誘われてシャッターを切る。被写界深度もとても浅いので、絞り開放での撮影は、自分自身で慎重にと声をかけるほど。丁寧にピントリングを動かしながら、ピント位置が動くごとに見えるピント面の移り変わりと、それに伴うボケの変化...それを見ているだけでもとても楽しい。一瞬でピントが合ってしまうAFと違い、ピントを合わせるまでの過程と、それまでに見えてくるものを眺めながらの行程が、写真を創っている実感と同時に、様々な事への気付きに繋がる。撮影には大事な時間だなと改めて感じさせてくれた。

大口径F1.2、素晴らしい描写に美しいボケと、これだけの写りを提供してくれるとなると、大きなボディやマニュアルフォーカスである事などと引き換えにしても欲したくなるレンズだ。是非魅了されてほしい。


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