滝の撮影方法
滝の撮影は風景写真の中でも人気の高い被写体です。
様々な滝の姿があり、一つ一つの滝に個性がありますが、大別すると3つのタイプに分けることができると僕は考えています。一つは落差のある「一本滝」、次に段々になっている「階段状の滝」、最後は白糸の滝のような「横長の滝」という風に分けることができると思います。しかし、どの滝の撮影でも共通して撮影の現場で行っていることがありますので、ここではそれを皆さんにお話させていただこうと思っています。
滝撮影でのポイント
滝撮影のポイントを3つにまとめますと・・・
- 寄って引いて
- 光と影
- 静と動
朝陽夕陽撮影同様これも当たり前のことですし、滝撮影に限らず撮影時いつも考えている事ではあるのですが、僕は滝の撮影時特に気を付けています。
では、さっそく3つのポイントについてお話していきましょう!
寄って引いて
雄大な滝を目の当たりにしたとき、まずは全体を捉えたくなるものです。そこは心のままに全体を撮っていきましょう!
あらら・・・お日様の光が滝つぼに入って明暗差がきつくなっています。こんな時は時間帯をずらして撮影してみてください。もし、もう一度は来ることが出来ない・・・という場合はハーフNDフィルターを使い明暗差を整えて撮影してみてください。
さて、時間帯をずらして夕方再び撮影に来た画がこちらです。
光の入り方が均等になって全面均等に減光が出来ています。滝の撮影をする場合滝に当たる光を読んで撮影する必要があります。ネットで事前に調べることが出来ればいいのですが、詳しい方がいれば聞いてみるのもいいでしょう。因みに、撮影に訪れた「富士白糸の滝」ですが、撮影を行った7月中旬は朝8時には1枚目のような状態になっています。ですので、滝全体の光が均等になっている状態を撮影する場合かなり朝早くに訪れるか、筆者のように夕方に訪れるといいようです。
さて、全体を撮ったところで終わりではありません。次は「目を惹かれた一部分」を撮影していきます。
滝を撮影する場合、どこか一部分を切り取ることで全く違った画になることがあります。例えば、この白糸の滝ですが、どうしてもメインの大きな滝に眼が行ってしまいます。ですが、そこを敢えてメインの滝を入れずその横の何本もの連なる滝を主題にして撮影するなど部分を切って撮影してみましょう。
また、思い切って飛沫に寄った画作りをしてみたり、ちょっと視点を変えて「滝と人」の画を撮ってみたりしても面白いと思います。もちろん撮影に協力していただくためお二人にお声をかけて撮影させていただきました。
滝撮影のコツですが、「全体を捉える眼と部分を捉える眼」両方を持ち合わせて撮影してみると良いと思います。「寄って引いての画作り」をする。滝の撮影では心がけてみてください。
光と影
さて、先ほど少しだけ触れましたが、滝撮影に於いて時間帯ってすごく重要です。何故、白糸の滝の再訪を翌朝ではなく夕方にしたのか?スケジュールの都合もあるのですが・・・実は、夏の夕暮れの白糸の滝は、数分間だけスポットライトのような光が当たる時間帯があります。
それがこの一枚です。メインの滝ではないのですが、何とも言えぬ秘境の滝のような一枚になりましたがこれも富士白糸の滝の一部です。
また、「清涼感」を出すためには光だけではなく影が必要になります。影があることでそこに涼しさが現れますし、その影と光のコントラストの強弱で撮影した場所の気温も感じられるようになってきます。さらに、光と影の部分を上手に切っていくことで「見せたいもの」を強調することもできます。滝撮影を行うときは、ぜひ「光と影」を上手に使って撮影してみてください。
静と動
お待たせいたしました、次はシャッタースピードのお話です。写真を始めたばかりの方はご興味のあるところではないでしょうか?
滝は迫力のある被写体であると同時に静かさも表現できる被写体でもあります。「静」を表現する滝の撮影方法としては、定番「流して撮る」ことで静寂さを表現できます。反面「動」を表現するには飛沫を早いシャッタースピードで撮影し表現することができます。
では、写真で見てみましょう。
まずは上の作例です。「とにかくシャッターを押しただけ」の様子見の画です。撮影データを見ていただいた通り、絞りF9 シャッタースピード1/60秒ISO200で撮りました。というか・・・カメラがそう算出しましたのでそのまま撮りました。これですと手持ち撮影でも十分なシャッタースピードが確保でき気軽に撮影することができますが・・・やはり、「静」的な画にしていくにはスローシャッターで撮影したところです。では、どのくらいのシャッタースピードで撮影すると水を「流した」画になるのか?これは僕基準ですが・・・
ズバリ!「まずは1/6秒を基準に画作りをスタート」させます。
滝の撮影は、「光の入り方」や「その日の水量」、「カメラから滝までの距離」などで様々撮影条件が変わるため、ひとまずは「その日その時の基準」が欲しくなるところ。その基準として、まず1/6秒でどのくらい水が流れているのかを確認し、頭に浮かんだイメージになるようシャッタースピードを上下させています。では、右の作例を見ていきましょう。基準となる1/6秒で撮影しました。いい感じになっていますね。これはこれでOKなのでそのまま1/6秒で完成としましょう。
さて、撮影データを見ていただいた通り、双方の違いはシャッタースピードが違うだけになっています。ということは・・・何かを使って減光しています。定番はNDフィルターなのですが、ここではC-PLフィルターを使って減光しています。理由は、滝つぼの青緑が綺麗だったので滝つぼの色を出したい!と思い、C-PLフィルターの反射をコントロールする能力と減光する能力両方を使い撮影しました。また、風景写真撮影ではND+C-PLフィルターを組み合わせて撮影する事もよくありますので、「ここで複数枚のフィルターを使って撮影する場合の注意点をお話しておきます。風景写真撮影ではこの2枚のフィルターの組み合わせはよく登場します。このとき、NDフィルターを被写体側、C-PLフィルターをレンズ側に装着して撮影してください。理由は、ND濃度が濃い方を被写体側にした方が内面反射の影響を少なくできるからです。
さて、水を「流した」画で撮ることは出来ましたが、これですとちょっとインパクトに欠けますし「静」的なイメージとしては物足りません。
ですので・・・NDフィルターの濃度をさらに濃いものに交換し、レンズも中望遠の135㎜に変え、カメラ内で撮影設定を変更し、頭に浮かんだイメージに近くしてみました。
まずはレンズの変更です。圧縮効果を使い画全体をコンパクトにまとめるため135㎜という中望遠のレンズを選びました。次に、理想の画にするためさらに濃NDフィルターに変更し減光、WBは青くなるよう晴天へ変更、彩度とコントラストをカラーモードで調節します。最後に「どのくらい水を流すか?」を決めるため複数枚撮影し、この日は6秒でOKとしました。撮り慣れていらっしゃる方ですと「絞りがなぜF3.5なのか?」というところが気になるのではないでしょうか?その理由は「敢えてコントラストを下げるため」です。今回のロケで使用したZEISS Batisシリーズというレンズは、撮り手のリクエストにしっかり答えてくれるレンズで絞ったら絞った分被写界深度もコントラストも上がっていきます。あまり絞ってしまうと、水の部分が必要以上に白飛びしてしまう可能性があったため、ここは絞りを開けて「敢えてコントラスト」を下げて撮影する事にしました。
広角で迫力 長秒で異世界感
今度は広角で撮った「静」的一枚も見ておきましょう。
ひとまずカメラ任せに一枚撮影し、様子を見ます。常用感度の下限ISO100中間絞りのF5.6で1/60秒となりました。それならば使うフィルターはND8くらいで良いかな・・・と思いND8を装着。次に、僕が滝撮影で水を「流れした」画を撮影する時の基準としている1/6秒から調整し、この時はシャッタースピード1秒が良いと思い撮影しました。
階段状の滝撮影のコツは、そのものズバリ「階段になっている部分をどう撮るか?」にかかってきます。この時、レンズは25㎜を選択しました。理由ですが、撮影したこの滝は比較的近くまで近寄れるため、広角レンズが持つの「パースの効果」を有効に使えるからです。広角レンズは、なるべく被写体に近寄って撮影すると遠近感がより強調できるため滝を大きく見せることができます。
ちなみに85㎜でも同じ滝を撮影しました。中望遠のレンズで撮影すると圧縮効果のおかげで奥が引き込まれるためコンパクトな印象になります。
構図構成線はそこにあるもので引く
次に、構図構成です。たくさん線を引いてしまいごちゃごちゃしてしまって申し訳ありません。ですが・・・これが撮影時、脳内にあった構図構成線です。
赤の線 - まずは滝のワイド感を出すために3角形を作ります。三角形の下辺「トメ」の部分は、少し説明的ではありますが水辺の「終わり」にあたる足元の岩場を敢えて入れることにしました。3角形も正三角形ではなく左を長くした三角形にしてワイド感を強調します。
白の線 - 次に白ですが、変則3分割構図にしてあります。紫の線でも分かるように、最上段を狭く、中段を膨らませ、赤い線の「トメ」に合わせた下段は広めにしてあります。これはパースの効果をより有効にするため徐々に手前を広くしています。この時、パースの効果をより引き出すためにカメラ(レンズ)を少し逆アオリにしてピッチ角度をつけています。
黄色の線 - 黄色の線は水の流れをみて線を引いています。水の流れが左右に分かれるポイントなのですが、当然ですがこの配分も遠近感をだすため右手前を長くしています。
水色の線 - 最後は水色ですが広がっていく感じを出すには、赤い線の下に向かっていく線も重要なのですが、上に向かっていく線があればより視覚効果が得られるのでここでも斜めの線を引きました。
これがロケ現場で僕が考えた構図構成です。説明すると長くなってしまいますが、慣れれば割と一瞬で構図構成線を頭の中で引くことができます。
構図構成なのですが、撮影していくうえで重要なことです。しかし、何よりも大事なことは、滝に限らず目の前にある被写体をどうすれば「より自分のイメージに近い形で撮ることができるのか?」を考えて撮影することだと僕は思っています。何も足さない、何も引かない、あるがままを撮るという考えも当然尊重されるべき考えですが、こと「自分の写真を撮影していく」とした場合、「撮る前にイメージを持つ」、「撮りながらひらめいたことを試していく」といった自分の中にあるものを具現化していくことが大事だと僕は考えています。
また、頭の中に浮かんだそのイメージを「どの道具」を「どう使い」、「どう具現化していくのか?」構図構成もそうしたテクニックの一つなので、とても大事なことですし、カメラやレンズのテクノロジーに詳しくなることも大事なことなのですが、全ては自分のイメージを具現化するためものです。この記事を読んでくださったみなさまには、ぜひ「イメージをする」ということ、そしてそれを原点に構図構成線を引き、レンズを選び、フィルターや道具を選びそれをどう使うのか?ということを考えながら撮影するということを実践していただければと思います。
イメージをして撮影する
さて、先ほどは「イメージ」をして撮影しましょう、などとえらそうなことを言いました。では、僕が現場でどのようなイメージをしたのか?です。僕は、この滝を見たとき、この写真のような画と「静寂と異世界感」というキーワードが浮かんできました。そのイメージを具現化するため、まずレンズを18㎜へ交換、可変NDフィルターのバリアブルNDXIIを装着し、より被写体に近いところへ移動します。さらに、滝を正面から受けワイド感を強調するためにしゃがむ位置まで高さを下げ、レンズもピッチ角度を付けあおった角度にします。WBを晴天にした後青側へシフトし発色をさらに青く変えました。露出はアンダー目にして暗さを演出し異世界感を出します。水の流れとしては、この日は1秒くらいが良いと思いましたので1秒で撮影しました。背景正面の緑をどうするか悩みましたが、青、白、黒、以外の色が入っていた方が良いと判断しハーフNDなどで暗くせず残しました。因みにこの一枚は、撮って出しノーレタッチです。これも説明すると長いですが、イメージが決まっていれば最短距離で具現化するために動くため、そんなに時間はかからずに撮影しています。自分が浮かべたイメージを具現化して撮影する。そうすることで自分らしい一枚になっていきます。みなさまもぜひ試してみてください!
躍動感
先ほどとは相反する世界観で「静と動」の「動」の画です。
僕は滝撮影のとき、水が「流れる」静的画のスローシャッター撮影だけではなく、冒頭の一枚のような踊る水の姿を撮影するため動的画のハイスピードシャッター撮影も行います。画的には相反するものですが、シャッタースピードを決めていく要因は、スローシャッターの時と一緒で「光の入り方」や「その日の水量」、「カメラから滝までの距離」などの撮影条件を考慮しながら決めていきます。
では、シャッタースピードを比較してみましょう
極端な比較をしてみましょう。
左はシャッタースピード1/125秒、右はシャッタースピード1/8000秒です。比較のため何枚かシャッタースピードを変えて撮影した作例を並べましたが、極端な比較が一番わかりやすいのでこの2枚を並べてみましょう。
1/125秒は動きがあり、水が落ちていくことが分かりますので、これはこれで良いとは思うのですが、やはりスローシャッター同様「人の眼には見えない世界」を撮ることができるのが写真撮影の面白さです。一粒一粒の飛沫が列を成し、まるで生き物のような水の姿を捉えることができます。こうした水の力を感じる動的一枚はハイスピードシャッターで撮影すると迫力を感じる一枚が撮れます。
今回使ったカメラ「ソニーα7RⅢ」のメカニカルシャッターの上限は1/8000秒ですので、上限の1/8000秒を使いました。僕個人としてはしっかり水を止めることができる1/8000秒の画が好みですが、羅列してあるシャッタースピードの比較では1/3200秒でも面白い動きの姿を捉えることが出来ていますので上限シャッタースピードが1/4000秒のカメラをお使いの方でもこうした「動」的画の撮影は楽しめると思います。ぜひ滝撮影の際はお試しください。
絞りすぎない
比較の写真を撮影してみました。赤い枠がカットした部分です(右F10の方は白飛びしている部分がありますがこれは単純に雲が切れて日が差し込んだせいです)。
さて、見比べてみると一目瞭然、左F22の作例は、回折現象のせいで岩が滲んでいます。右のF10の方はしっかりシャープに岩肌が再現されています。スローシャッターを前提とした撮影の場合、絞ることでシャッタースピードを落とすこともできますが作例のように絞りすぎてしまうとなんだかぼんやりした画になってしまいます。僕の場合F10~F13以上絞る事は無く、あとはNDフィルターでシャッタースピードを調節しています。せっかく「よし!良いのが撮れた!」と思っても、絞りすぎで画がぼんやりしていたらなんだか残念な気持ちになってしまいます。ですので、減光する際はNDフィルターを使い「カメラやレンズが一番仕事をしやすい環境」で撮影してあげることをお勧めします。
滝の撮影に便利なアイテム
この記事の作者
小河 俊哉(おがわ としや)
東京都出身。
自動車整備士、カースタントマンなどを経てフリーフォトグラファーとなる。
自然、風景、クルマ写真などを専門とし雑誌、クラッシックカーイベントなどで活躍。 現在、作品集作成のため精力的に国内外で撮影中。