【実写レビュー】柔らかみのある描写で独特の写りをするSAMYANG AF 35mm F1.4 FE
萩原 和幸 (はぎわらかずゆき)
1969年静岡生まれ。
静岡大学人文学部法学科及び東京工芸大学写真技術科卒業。 写真家・故今井友一氏に師事。主に広告を中心にファッション撮影を学ぶ。独立後は広告・雑誌にて人物撮影で活動。カメラ専門誌にも寄稿多数。近著に写真集『記憶(モデル:藤江れいな)』(玄光社)、『プロが撮影で疎かにしない・ポートレート撮影の三原則』(秀和システム)、『ポートレート撮影レフ板ライティング完全マスター』(玄光社)など。(公社)日本写真家協会会員、静岡デザイン専門学校講師。
高コストパフォーマンスレンズを多くラインナップするSAMYANG。私が実際に毎月1本ずつ撮影に持ち出し、萩原独自の評価と作例をお伝えしようというもの。
第3弾は、『AF 35mm F1.4 FE』。
このレンズは、ソニーEマウント・フルサイズ対応のAF 35mmレンズ。現在SAMYANGではソニーEマウントのフルサイズ対応AFレンズを大幅に拡張中。広角側14mm F2.8から最新の18mm F2.8、24mm F2.8、35mm F2.8、45mm F1.8、50mm F1.4、85mm F1.4と、中望遠まで細かくラインナップされており、今回のレンズであるAF 35mm F1.4 FEは、そのラインナップの1本である。
Eマウントで35mm F1.4といえば、同じスペックでソニー純正の『35mm F1.4』をどうしても意識してしまう。フィルター径こそ違いはあるが、重さはほぼ同じで、最短撮影距離(0.3m)、最小絞りはF16、絞り羽根9枚と、撮影でのスペックは全く同じ。 となると、価格面での強みを発揮するSAMYANG。ソニー純正の『35mm F1.4』は20万円前後と高額だが、SAMYANG AF 35mm F1.4 FEは7万円前後と、純正レンズの約3分の1にしてこのスペック。35mmを、F1.4をAFで楽しめるとすれば、価格の比較をせずとも、SAMYANGに大きな魅力を感じるのは当然だろう。 ソニー純正の『35mm F1.4』は、価格に見合う素晴らしい写りなのはもちろんだが、この後の作例をご覧いただくとして『SAMYANG AF 35mm F1.4 FE』は、この価格にしてこれだけの写りと操作性を提供してくれると思うと、使用する我々は、とても難しい選択を強いられるに違いない。
レンズ構成は9群11枚。高屈折レンズ(HR)2枚と非球面レンズ2枚を採用。
金属製の鏡筒デザインは、フルサイズ対応のEマウントAFレンズと同じく、とてもシンプルで高級感が漂う。
アクセントカラーとなる赤いリングが、ソニーα9/α7シリーズのマウントカラーに合わせてか、装着すると、とても似合う。
フードはとても実用的。返せばレンズの先に装着できる。
では早速撮影に。
今回はスナップ撮影、カメラは全編ソニーα7R Ⅳで行なった。
F1.8とほんの少し絞ってみての撮影。背景のボケの滑らかさ、ピント面のシャープさが感じ取れる。
小さな稲荷神社のお堂にて。広さを感じる、でも無理のない広がりが35mmのいいところだ。
古い木塀に錆びた樋の質感がいい感じで再現されている。
輸送の今昔を一緒に。
キリッとシャープになるがギスギスした感じはなく、見た目にナチュラル。
タンクの表面の凹凸、金属的なテカリ、とても繊細に捉えているのがわかる。
不意に横から従業員の方々が出てこられたので後ろ姿を。AFで素早くピントを合わせることができた。全く不満なし。
蔵の漆喰。漆喰には手で作られた柔らかさがあるが、その柔らかさを損なうことなく質感を捉えてくれている。
大口径レンズの旨味は、浅い絞りからの絞りのコントロールに幅があることだ。
F1.4なので、絞りはF16まで。こう言う画ではF22くらいまで欲しいなあと思いつつも十分に表現できた。
開放ではピント面はにじみのあるような独特の描写。この描写に見せられるポートレートファンも多いだろう。
まっすぐに伸びる線路と青い空のマッチングがたまらなかった。
最短撮影距離の0.3mで撮影。35mmレンズとしては標準的な距離。
これから影がのび、日陰とひなたのコントラストがさらに美しい季節になる。35mmという画角は、両者を無理なく伴わせるカットに向いている。
開放F1.4で撮影し、背景のボケに期待して自転車を浮かび上がらせた。ボケ味が滑らかで、自転車の浮かび上がり方がとても自然だ。
日常みかける看板。周りの入れ方でストーリーを作るのに35mmは構えやすい。
アンダーでの描写もとてもよい。コントラストは高めで、このようなカットは得意。
とっさに出くわした場面。見た目よりもほんの少し広い35mmは、誇張を感じさせず、まるで見たままのようにシーンを伝えてくれる。
長岡駅構内にある試飲場。さすが米どころの新潟は酒もうまい。
飲兵衛にはたまらない。
背景の試飲販売機がわかるように。
最短撮影距離0.3mでクロップ撮影。センサーをAPS-Cに切り替えてクロップすることで約52.2mmの画角になる。これで0.3mまで寄れると、ちょっとしたマクロ撮影が楽しめる。
無数の丸ボケが美しい。朝早く出会えると、1日がハッピーに。
日の当たる緑の爽やかさ、障子に感じられる冷たさ、その両方を捉えてみる。廊下の反射の緑も美しい。
僅かに陽のさす金庫のエンブレムを、最短撮影距離で。
なんか、こう、憎めないなあと思いまして。
屋内でもF1.4の開放値には余裕を感じる。絞り開けの方向に選択肢があることは、とても助けとなる。
古いお堂に、日差しと影の風合いがなんとも良くて、全体を収めてみた。
すりガラスの向こうの植物、ガラスや木枠の質感に惚れ惚れする。
トンボが止まる菩薩様。
出会う場面を程よく捉えられる画角に、見せ方のコントロールであるボケの幅の選択肢が広いことは、撮影しやすさにつながる。
総評
現在、私の人物・グラビア等の仕事撮影では35mmの登場頻度が最も高い。それだけに、私の"標準レンズ"的存在となっている。今回もそうした視点から厳しい眼で観察している。その私が今回改めてAF 35mm F1.4 FEを使用してみて、『使える』の印象は変わりなかった。AFの速度、立体感あるボケ味と解像感、仕事でも十分なパフォーマンスを見せてくれる。また以前「仕事では費用対効果が求められる」と語ったが、35mm F1.4というスペックからすれば、純正はやや高めとも思える。それなりの頻度で使用しなければという気負いにもつながってしまうが、このAF 35mm F1.4 FEなら手を出しやすい。そして肝心の写りはご覧にただいた通りだ。
開放は柔らかみのある描写で独特の写り。F1.8あたりからすでにシャープさを見せてくれて、その後は文句のない描写で迎えてくれる。
今回はスナップ。用途も広いし、35mm F1.4を存分に味わいたいのなら、この価格でこれだけの写りなら満足感は高いはずだ。