【実写レビュー】雰囲気を纏いながらも主題をシンプルに浮かび上がらせるSAMYANG AF 75mm F1.8 FE

萩原 和幸

萩原 和幸 (はぎわらかずゆき)

1969年静岡生まれ。
静岡大学人文学部法学科及び東京工芸大学写真技術科卒業。 写真家・故今井友一氏に師事。主に広告を中心にファッション撮影を学ぶ。独立後は広告・雑誌にて人物撮影で活動。カメラ専門誌にも寄稿多数。近著に写真集『記憶(モデル:藤江れいな)』(玄光社)、『プロが撮影で疎かにしない・ポートレート撮影の三原則』(秀和システム)、『ポートレート撮影レフ板ライティング完全マスター』(玄光社)など。(公社)日本写真家協会会員、静岡デザイン専門学校講師。

『萩原流サムヤンレンズ使い倒し』。
高コストパフォーマンスレンズを多くラインナップするサムヤン。私が実際に毎月1本ずつ撮影に持ち出し、萩原独自の評価と作例をお伝えしようというもの。

第7弾は、『AF 75mm F1.8 FE』。

SAMYANG AF 75mm F1.8 FE 製品画像

ソニーEマウント・フルサイズ対応の75mmレンズだ。中望遠レンズといえば85mmを思い浮かべる方も多いだろう。85mmは中望遠とはいえ、画角に狭さを感じることも多いはず。かといって50mmでは広いな、と感じていた方には、まさにうってつけの画角が75mmだ。日々の日常を切り取るのにはちょうどいい画角で、撮影者が写真で表現したいと感じた被写体に対し、最も素直に切り取ることができる画角ではないだろうか。

さて、今回の『AF 75mm F1.8 FE』だが、まずはたいへんコンパクトなことに驚く。全長はフード無しの状態で69mm、重さはわずか230gだ。そもそもコンパクトなボディであるα9/7系なので、携帯性を損なうことなく、まさにジャストサイズ!といったところ。気軽に持ち運びできるのはたいへん大きなメリットだ。

SAMYANGのEマウント用レンズシリーズで統一された、非常にシンプルなデザイン。
レンズ構成は9群10枚、アクロマートを適用した3枚の低分散レンズ(ED)で色収差を効果的に制御、高屈折率レンズ(HR)仕様で、ここまでの小型化を実現している。UMCコーティングで内部反射を最小限に抑え、高コントラストな画を提供してくれる。

SAMYANG AF 75mm F1.8 FE 製品画像

同梱のフードを装着。細身で、コンパクトさを損なわない。逆に装着することで、レンズを保護しながら収納できる。

SAMYANG AF 75mm F1.8 FE 製品画像

今回の撮影に使用したSONY α7RⅣに装着。まるで純正レンズと思えてしまうほどのマッチングの良さ。純正のFE 55mm F1.8 ZAを彷彿とさせるスタイルで、ソニーユーザーはすんなりと受け入れられる。手にした時のバランスはすこぶる良い。

SAMYANG AF 75mm F1.8 FE 製品画像

今回初搭載となったカスタムスイッチ。AF/MFの切り替えができるほか、ピントリングで絞りを調整できるように設定が可能。

では、早速撮影に出掛ける。
75mmといえばポートレートが思い浮かんだが、このコンパクトさと取り回しを試したくなり、スナップ撮影を行うことにした。
(この撮影は、緊急事態宣言発令前の、不要不急による外出自粛が呼びかけられる以前に撮影したものです)


SONY α7RⅣ 絞り優先AE(f2.8 1/125秒) ISO320 WB:オート  RAW

ガラスの質感を、高いコントラストの中で、繊細に伝えてくれる。


SONY α7RⅣ 絞り優先AE(f6.3 1/125秒) -2.3補正 ISO100 WB:オート  RAW

街を流れる上水。水の泡と揺らぎが美しく、その様子を見たままに。


SONY α7RⅣ 絞り優先AE(f1.8 1/1250秒) -2.3補正 ISO100 WB:オート  RAW

赤が際立ちながらも、とてもまろやかでふんわりした描写。心落ち着く画に仕上がった。


SONY α7RⅣ 絞り優先AE(f5.0 1/1600秒) -1.7補正 ISO100 WB:オート  RAW

街道に傘が浮かび上がる。背景は古の街道の様子をいい具合に伝えてくれる。


SONY α7RⅣ 絞り優先AE(f1.8 1/500秒) -1.3補正 ISO100 WB:オート  RAW

旅籠の看板は、街道の雰囲気を感じるのにはうってつけ。雰囲気を画角いっぱいに収める。


SONY α7RⅣ 絞り優先AE(f2.8 1/800秒) -2.3補正 ISO100 WB:オート  RAW

誇張はないものの、見入ってしまうのは、とても繊細な描写のせいかもしれない。


SONY α7RⅣ 絞り優先AE(f2.0 1/1000秒) -0.7補正 ISO100 WB:オート  RAW

背景とバケツはさほど離れていないが、バケツはしっかりと浮かび上がる。ブリキの質感も美しい。


SONY α7RⅣ 絞り優先AE(f2.0 1/500秒) -0.7補正 ISO100 WB:オート  RAW

さすが中望遠と思わせてくれる前後のボケ。


SONY α7RⅣ 絞り優先AE(f2.5 1/500秒) -0.7補正 ISO100 WB:オート  RAW

木の質感を見事に伝えてくれている。時代を感じさせてくれるのは、コントラストの高さに加え、程よいシャープさのバランスからだろう。


SONY α7RⅣ 絞り優先AE(f4.5 1/1250秒) -2.0補正 ISO100 WB:オート  RAW

看板のモニュメントの面白さを切り出す。こうした使い方は50mmでは物足りない。程よい画角を実感できる。


SONY α7RⅣ 絞り優先AE(f2.0 1/1250秒) -1.7補正 ISO100 WB:オート  RAW

しっとりとした描写なので、このような影にある被写体についついカメラを向けてしまう。


SONY α7RⅣ 絞り優先AE(f2.8 1/500秒) -1.7補正 ISO100 WB:オート  RAW

ピント面はキリッと浮かび上がり、境目を感じずになだらかにボケていくのがわかる。


SONY α7RⅣ 絞り優先AE(f2.8 1/640秒) -2.3補正 ISO100 WB:オート  RAW

このレンズで狭い路地を歩くのは楽しい。目に付いたものを素直に切り取っていく。


SONY α7RⅣ 絞り優先AE(f1.8 1/6400秒) -1.7補正 ISO100 WB:オート  RAW

遅咲きの梅があった。ピント面の梅が浮かび上がる。点光源は綺麗な玉ボケになる。


SONY α7RⅢ 絞り優先AE(f1.8 1/3200秒) -1.7補正 ISO100 WB:オート  RAW

最短撮影距離で。最短撮影距離は0.69m。あまりにコンパクトなので、もう一歩寄りたい気持ちになってしまった。


SONY α7RⅢ 絞り優先AE(f2.5 1/5000秒) -2.7補正 ISO100 WB:オート  RAW

逆光で照らされた花弁を写す。こうした切り出し方は中望遠ならでは。


SONY α7RⅢ 絞り優先AE(f3.5 1/1600秒) -1.7補正 ISO100 WB:オート  RAW

丸いヘッドライトの質感、サビの描写、まるで目の前で見ているような繊細さだ。


SONY α7RⅢ 絞り優先AE(f1.8 1/125秒) -1.3補正 ISO400 WB:オート  RAW

木曽馬の優しい目にピントを合わせ、ポートレートを撮影させていただいた。


SONY α7RⅢ 絞り優先AE(f1.8 1/500秒) -0.3補正 ISO100 WB:オート  RAW

横顔を。光るたてがみが美しい。すっきりとした描写は、確かにポートレート向きだと思う。


総評

フルサイズユーザーで50mmでは物足りなさを感じていた方には、もう一歩寄った画で被写体を捉えることができるこのレンズは、ドンピシャの画角だろう。85mmほど大きなボケではないので、絞り開放でも、状況を説明するには十分のボケが残るので、雰囲気を纏いながらも主題をシンプルに浮かび上がらせることができる、とても使い勝手のいい画角だ。

標準ズーム系のテレ端である70mm前後は、意外と見慣れている方も多いだろう。その使い勝手は、むしろ身についていらっしゃる方も多いのではないだろうか。その画角で開放値を明るく、ボケを大きくできると思っていただいていいと思う。

高コントラストながらも、まろやかな、角のない描写で、むしろ玄人好みの描写だなと感じた。コンパクトなので、カメラバッグに入れておくだけでもとても強い味方になるだろう。α9/7系のユーザーは、買いの一本だと思う。