単焦点レンズ35mmと50mmの違いってなに
こんにちは!フォトグラファーの小河俊哉です!
Tokina atx-mシリーズからFUJIFILM Xマウント用単焦点レンズ2本が発売されました。そのレンズが、at-xm23mmF1.4とatx-m33mmF1.4です。因みにatx-mの「m」はmotif(動機・創作行為)を表しており「ユーザーが創作行為を掻き立てられる」ことを意味してるとのこと。
ここでちょっと裏話ですが、数年前僕がTokinaの方に取材したとき「ケンコー・トキナーは、写真や映像を楽しむたくさんの人に貢献できることを考えています、小河さん楽しみにしていてください!」と上層部の方が仰っていました。今考えると、それが現在進めている新シリーズの事だったのかな...と、思っています。
さて、肝心のレンズのお話です。
FUJIFILMのXシリーズは、APS-Cサイズの撮像素子が搭載されているカメラです。
ですので、焦点距離が23㎜と33㎜といえば35㎜換算35㎜と50㎜にあたります。
この領域の単焦点レンズといえば、初めての単焦点レンズとしてお買いになる方も多く、この焦点距離のレンズをどう使えばより面白く使えるのか?をもっと良く知りたいという方もいらっしゃると思います。
今回は、そうした「初めての単焦点レンズ」をお考えの皆様に向けて、新たに発売された「ユーザーが創作行為を掻き立てられる」この2本のレンズを使い、単焦点レンズの面白さを実践的な視点で解説していきたいと思います。
また、今回は入門者の方が多くいらっしゃるでしょうから、僕がいつもTokina HPのレンズ解説で使っている「論文口調」の固い言葉ではなく、より親しみやすい「話し言葉」で綴らせていただきたいと思っています。
ではさっそく始めていきましょう!
35mmと50㎜の違いって何?
atx-m 23mm f1.4 X
tx-m 33mm f1.4 X
23㎜(35㎜換算35㎜)と33㎜(35㎜換算50㎜)の違いって何でしょうか?
見た通り数字の大きさの違い、画角の広さの違いなどを真っ先に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
以前、僕が主宰している写真サークル「小河塾」で生徒さんに同じ質問をされたことがあります。質問を質問で返すことは良くないのですが、小河塾は考える写真教室ですので、敢えて「あなたはどう思いますか?」と返しました。すると、先ほどお話したような答えが返ってまいりました。
日頃、ズームを中心に使われている方ですと、「画角の広さの違い」に眼がいくようです。もちろんこの答えは間違いではありません、しかし、23㎜(35㎜換算35㎜)と33㎜(35㎜換算50㎜)には単に画角の違いだけではなくもっと別な違いがありますし当然使い方にも違いがあります。
では、どんな違いがあるのでしょうか?
結論から言ってしまうと・・・
23㎜(35㎜換算35㎜)は、「広角の終わり標準の始まり」という両側面があり、被写体に対し真っすぐに撮れば標準然とした撮り味だが、レンズにアングルを付けることで広角らしいパースペクティブ効果がチラリと顔をのぞかせるレンズで広角と標準の両側面を使いながら撮影していくというレンズ。
33㎜(35㎜換算50㎜)は、「人の持つ視覚に近いプレーンな画」という特性を使い、人の持つ広い視野の中からどこをどう切りぬき撮影するか?また、ボケ味や被写界深度を操りながら、メインとなる被写体をどう明確にするか、という使い方のレンズ
といえます。
もちろんこれは、僕個人の考える使い方の違いですのでご参考までにといったところですが、概ねこうした使い方をされている方が多いと思います。そこで、皆様にぜひ知っておいていただきたいことがあります。
それは次の項目でお話しましょう。
焦点距離には特性がある
さて、先ほどの説明だけでは「・・・さっぱり分かりません」という方もいるかもしれません。そこで知っておいていただきたいことがあります。それが「焦点距離にはその距離ごとに特性がある」という事です。
例えば、33㎜f1.4は、35㎜換算(注1)で50㎜です。いわゆる「標準」と言われる焦点距離になります。なぜ標準と言われるのか?諸説あるのですが、ここでは「焦点距離の特性」という視点でお話していきます。
33㎜(35㎜換算50㎜)は、広角レンズの効果、近いものが大きく、遠いものが小さく見えるという「パースペクティブ効果」がほぼ無くなります。併せて33㎜付近を境に望遠レンズの効果、遠くにあるものが近くに見える「圧縮効果」もほぼ無くなります。
すなわち、33㎜(35㎜換算50㎜)付近はとても自然な見え方になります。これが33㎜(35㎜換算50㎜)の特性であり、先ほどお話した「人の視覚に近い」という事になります。
標準といわれる焦点距離は、見た目に近いプレーンな画、それを上手に使い構図を構成していく面白さがあります。また、50㎜F1.4はトレーニングレンズという側面もあり、かくいう筆者も初めて手にした単焦点レンズは50㎜F1.4でした。筆者もそのレンズで写真のイロハを学びました。
次に23㎜の特性です。
先ほどお話した通り23㎜は35㎜換算で35㎜になります。35㎜の特性は「広角の終わり、標準の入り口」と言われています。先ほどお話した通り、33㎜(35㎜換算50㎜)は人の視覚に近いプレーンな画ですが、23㎜(35㎜換算35㎜)は、アオリ構図、逆アオリ構図などレンズに角度を付けて撮影する際、広角らしいパースペクティブ効果がチラリと顔をのぞかせます。逆にあまりレンズに角度を付けて撮影しなければ標準然とした画になり、33㎜(35㎜換算50㎜)では撮れない広さの画が撮影できます。
言葉だけでは分かりづらいところもありますね、ではここからはTokina atx-m23mmF1.4とatx-m33mmF1.4で撮影した写真を見ながらお話していきましょう!
*注1)35㎜換算とは、フルサイズフォーマットの撮像素子(35㎜フイルムの大きさ)でその焦点距離を例えるならという事です。FUJIFILM XシリーズのカメラはAPS-Cというコンパクトな撮像素子を搭載していますので、この場合フルサイズフォーマットの撮像素子に例えるなら×1.5にする必要があります。
23㎜と33㎜2本のレンズを使い同じ被写体で撮り比べてみよう
構図に少し高さの違いがあることをお許しいただきたい。被写体の車に対し、なるべくレンズに角度を付けず真っすぐに撮影すると、背景の広さにちがいはあるものの23㎜、33㎜共に標準然とした写りになっているといえますね。
しかし、アオリ構図でレンズに角度を付けて撮影すると・・・
23㎜(35㎜換算35㎜)はパースペクティブの効果がチラリと顔をのぞかせ押し出し感のある画になっています。ドアミラーの大きさはほぼ一緒ですが、車のフロント部分はパースペクティブの効果で少し広がっていますし、ボディのラインも少し伸びて見えます。23㎜は、こうした「広角の終わり、標準の入り口」という2つの側面を使い分けて撮ることができます。
逆に33㎜は、「人の視覚に近い」正確なボディサイズで撮影することができます。23㎜と33㎜は自分の撮影したいイメージによって使い分けるとよいでしょう。
撮影時、カメラのセッティングは2本のレンズ共に全く一緒のセッティングで撮影しました。ご覧の通り、atx-m 23mm F1.4Xとatx-m 33mm F1.4 X双方ともにダークトーンの再現が良く、またカリカリしないやわらかい画が撮影できるようです。コントラストも良いようでボディに映った空もしっかりツヤツヤで再現していることが分かります。この2本のレンズの共通する撮り味としては、やわらかい撮り味でありながらもしっかりと要所を押さえたレンズと言えるでしょう。
23㎜を違った被写体で広角らしく使ってみましょう。
この作例では、標準然とした「並び」の撮影を行いましたが・・・
こちらは、被写体に近寄りアオリ構図でレンズにアングルを付け「近いものが大きく、遠いものを小さく見せる」パースペクティブの効果を出し広角らしく撮影しました。
23㎜攻略は、アクティブに動いて焦点距離の特性を使いながら撮影をしていくと23㎜らしい画が撮影できます。
33㎜の自然な見え方
33㎜(35㎜換算50㎜)といえば、ポートレートにもよく使われるレンズです。この作例は、TokinaのHPでatx-m33mmF1.4のレンズレビューでも使った写真なのですが、こちらではレンズの特性という別の視点から解説していきたいと思います。
33㎜は「人の視覚に近い」特性があると先ほどお話しました。33㎜のレンズで撮影した場合、プレーンな見た目のままを撮影する事ができます。モデルさんを見たままに撮ろうとするなら積極的に33㎜前後のレンズで撮影したいところです。
さて、背景のボケですが、ラグビーボール状になっているものもありますね。ですが、解放F1.4の明るい単焦点レンズともなれば画面周辺に配置された点光源がラグビーボール状になるのはある程度あり得ることです。しかし、そのラグビーボールの形状が大事だったりします。
様々なレンズがある中、レンズによっては片方がスパッと切れてしまっているような形状のものもあるのですが、atx-m 33㎜ F1.4 Xはとても自然な形状のものといえます。
もう一枚33㎜の画を見てみましょう。
先ほどと同じように、この作例もTokinaHPでatx-m 33mm F1.4 Xのレンズレビューで使った写真です。同様に違った視点で解説していきましょう。
撮影した場所は、日本家屋の並ぶ素敵な路地裏で非常にフォトジェニックな場所でした。「場の空気感」を大事にするため、ここは敢えて地明かりのみで撮影することにしました。しかし、地明かりだけだとちょっと暗いかなと思う場所でもありましたが、レンズを信じてストロボなしで勝負することにしました。背景を入れての撮影という事で、最初はatx-m 23mm F1.4 Xでの撮影を考えたのですが、手前と奥の距離感を考え、且つ路地の落ち着いた空気感を出すには「人の視覚に近い」33㎜の方が合うと考え、この画はatx-m 33mm F1.4 Xで撮影しました。
次に、構図構成です。先ほどお話しましたが33㎜はどこをどう切るか?という考えで構図構成していきます。色線入りの解説写真をご覧ください。
まず、赤い線で引いた手前の行灯(あんどん)から、奥行きを出すためのアンカーポイントにするため敢えて入れた画面左隅の小さな行灯までで「つながり」を出し奥行き感を作ります。次に縦の黄色い線は、縦線のならびで同様に奥行きを出します。そのつながりを水平の手すりで結び全体のまとまりを出しておきます。最後にモデルさんの配置は、白枠の格子に顔がかからないよう位置を決め、さらに街並みが和の雰囲気ということでモデルさんを起点として画面左右が東洋黄金比1:1.4に近くなるよう配置し撮影しました。
夜の落ち着いた雰囲気の街並みなど、こうした落ち着いた空気感を出すには33㎜という人の視覚に近い特性を持つレンズの方が場の空気感をだしていくことができます。
また、このレンズの持つダークトーンの再現の良さを活かしたり、最初の方でお話した光源の少なさもほんの少しだけ絞ったF1.6で撮影することで解消できています。明るいレンズだからこそできることでもあります。
まとめ
さて、まとめです。ここまでお話させていただいた通り、23㎜(35㎜換算35㎜)と33㎜(35㎜換算50㎜)のレンズは、単に画角(広さ)の違いだけではなく、焦点距離ごとの特性を使って撮影していくともっと違った使い方ができるレンズだとご理解いただけたのではないでしょうか?
また、単焦点レンズは「自分が動いて構図を作る」ことが基本になります。逆に言えば、被写体との距離の大切さが実感できますのでトレーニングレンズとしても最適だったりします。さらに、言えば23㎜、33㎜それぞれの使い方の違いが分るとレンズに合わせた動き方になり動く目的も明確に違ってきます。
例えば、広角の要素がある23mm(35㎜換算35㎜)は、写真の基本「引き算」の構図構成だけではなく、どこまで画角に入れるか?逆に何を足せばより被写体が明確になるのか?という「足し算の考え方」も必要になるためそれに向けての動き方になります。
また、33mm(35㎜換算50㎜)は、写真の基本「引き算」を芯に置き、どこをどうフレーミングするか(どう切るか)?というセンスが求められ、さらには「そこだけしか見せない」という潔ささえも求められるところがあります。
また、ボケをコントロールするなら被写体までの距離、そして絞りをどこまで開けるか?被写体とレンズの角度によってもボケは変わってきますのでそれをどう画作りに活かすのか?など様々な計算をしながら画を作っていく動きになっていきます。
23㎜と33㎜のレンズは、近い焦点距離ではあるものの使い方は明確に違うレンズで、それぞれ違った楽しみ方があります。この楽しみ方の違いを覚えておいていただいて、実際の撮影の時に役立てていただければ幸いです。今回は「初めての単焦点レンズ選び」という方に向けての特集でしたがいかがでしたでしょうか?
最後まで読んでいただきましてありがとうございました!
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この記事の作者
小河 俊哉(おがわ としや)
東京都出身。
自動車整備士、カースタントマンなどを経てフリーフォトグラファーとなる。
自然、風景、クルマ写真などを専門とし雑誌、クラッシックカーイベントなどで活躍。 現在、作品集作成のため精力的に国内外で撮影中。