初めての星景写真「#3 フィルターワークで星景写真をワンランクアップ」

初めての星景写真「#3 フィルターワークで星景写真をワンランクアップ」
写真家 茂手木秀行

写真家 茂手木秀行(もてぎ ひでゆき)

1962 年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社マガジンハウス入社。2010年フリーランスとなる。1990年頃よりデジタル作品制作と商用利用を始める。中学生の時に天文部に所属して以来、天体、星景の撮影はライフワークであり、多くの個展やセミナーを行ってきた。JPS 正会員、APA 正会員、写真学会会員

星景写真にはフィルターを使おう

昔は良かった的な話で大変恐縮なのだが、筆者が天体写真を始めた少年時代は、少しばかり郊外や地方に行けば天の川を見ることもできたし、山に登ればすっきりと美しい星空に出会うことができた。しかし時代とともに星は見えなくなり、今や都市圏から随分と離れないと美しい星空に出会うことが難しくなってしまった。デジタルカメラで誰でも星景写真を楽しめるようになったにも関わらず残念な限りである。星がどれだけ見えるかはもちろん気象条件に左右されるが、その固定的要因は都市の灯りだ。街灯、家やビルの窓灯りから自動販売機の照明までたくさんの灯りがある。もちろん安全にかつ便利に生活してゆく上で十分な灯りは必要なものであり、それを星景写真と天秤にかけるわけにもいかないものだ。

だが、時代の進歩はよくしたもので、現在ではRAW現像を駆使したり、星景写真用フィルターを使いこなすことで、イメージ通り、あるいは見たまま以上の星空を写し止めることができるようになった。今回は星景写真におすすめのフィルターを紹介してゆこう。

光害をカットする「スターリーナイト」

星景撮影における常用フィルター。ほとんどデメリットはないので星景撮影時にはずっと付けっぱなしで良い。サイズ展開も幅広く49ミリ〜82ミリまで揃っている。 製品情報を見る

ケンコーといえばフィルターをイメージするほど、数多くのフィルターを作っている。中でも、星景写真用途として多くの星景写真ユーザーが愛用しているのがこのスターリーナイトである。製品には「街明かりによる色カブリを抑える」との効能書き通り、星空をすっきりとコントラストよく見せ、かつ夜空らしい色合いに整えてくれる。

特に倉庫や工場などで使われる水銀燈(緑カブリ)や高速道路などで使われるナトリウムランプ(オレンジカブリ)に効果がある。これらの灯火はかなり遠くまで影響があるので星景写真における常用フィルターと言える価値あるフィルターだ。

メリットがあれば当然デメリットもある。光をカットするのでやや暗くなることだ。約0.3段分暗くなる。
この点は

1)露光時間を1/3段長くする
2)絞りを1/3段開ける
3)ISO感度を1/3段高くする
4)RAW現像時に1/3段明るく設定する

以上4つのうちいずれかの方法で解消できる。現在のデジタルカメラの能力からすればいずれの方法であってもデメリットと言うほどのものではない。筆者は基本的にRAWデータで撮影しているので4)を選択することがほとんどだ。

比較作例

共通データ NIKON Z7 マウントアダプターを介してTokina FiRIN 20mm F2 FE 絞りF2.8 露光30秒 ISO800 WB:晴天 Skymemo S使用
フィルター未使用 「スターリーナイト」使用 RAW現像時に+0.3段補正
フィルター未使用「スターリーナイト」使用 RAW現像時に+0.3段補正

スターリーナイトフィルターの効果を確かめるべく撮影してみたのが上の写真だ。RAWデータで撮影し、スターリーナイトで撮影したもののみ、RAW現像時に0.3段明るく補正することで、スターリーナイト有無の露光を揃えた。その他の項目は補正していない。

撮影は千葉県の上総一ノ宮町で行い、西の空を撮影した。東は太平洋で光害の原因となる街明かりがないため天の川が見えるほど夜空は暗い。反対に西には東京、横浜の都市、工場の灯の影響を大きく受けている。

2つのカットを比較すると地平線から上に向かって夜空が明るくなっている部分の面積が、フィルター使用の写真で明らかに小さいことがわかる。注目すべきは画面下左にある雲の様子で、「未使用」の写真では黄色くはっきりと写っているが、「使用」の写真では黄色みが抑えられて、明るさも減じられている事がわかる。この黄色みはコンビナートにあるナトリウムランプによるものだ。また、画面中心より上では明らかに夜空が暗くなっていることもわかり、スターリーナイトフィルターが光害をカットする役割を果たしていることがわかる。可能であればこの写真をダウンロードして拡大してみてほしい。下の写真では地平線近くまで星が写っているのがわかるはずだ。

星を目立たせるフィルター

星景写真を一度でも撮った事があるなら、明るい1等星の輝きがあまり再現されずにがっかりしたことがないだろうか?実はデジタルフォトでは、星の明るさの差が写りにくいのだ。星は無限遠にあり、面積を持たない点として写るからだ。1等星も3等星も同じように写ってしまい、星座の形なども辿りにくい。そこで星の像にぼかし効果を与えて、星の明るさの差をわかりやすく表現するのがここで紹介するフィルターたちだ。

製品 PRO1D プロソフトン[A](W) PRO1D プロソフトンクリア(W) PRO1D R-トゥインクル・スター(W) PRO1D R-トゥインクル・スター6X(W) スターリーナイト プロソフトン
ソフト効果 弱め(この中では最も強い) PRO1D プロソフトン[A](W)の半分 PRO1D プロソフトン[A](W)の半分相当 PRO1D プロソフトン[A](W)の半分相当 PRO1D プロソフトン[A](W)の半分相当
特長 星景写真の定番フィルター。星が自然なボケ具合となる 星を目立たせつつ風景のシャープさも保てる 星や街灯などの輝点から4本の光条が発生する 星や街灯などの輝点から6本の光条が発生する 光害カットとソフト効果が1つになったフィルター
※右にスクロールできます。

左からPRO1D プロソフトン[A](W)は元々はポートレート用のぼかしフィルターだが、星をぼかすときにも自然なボケ具合となることから長らく星景写真ユーザーに使われてきた定番商品だ。PRO1D プロソフトンクリア(W)はぼかし効果をPRO1D プロソフトン[A](W)のおよそ半分とすることで、星を目立たせつつ風景のシャープさも保つように調整されたもので、より「風景」に重きを置いた星景写真を撮れるようになった。PRO1D R-トゥインクル・スター(W)はPRO1D プロソフトンクリア(W)と同等のぼかし効果を持ちつつ、星や街灯などの輝点から光条が発生するようにしたものだ。絞りを絞って撮影したような効果が得られ、光条が4本のタイプと6本のタイプがある。

ちなみにフイルムで星空を撮ると特にぼかしフィルターを使わなくても、星の明るさの差がわかりやすい。フイルムの乳剤の中で光が拡散するとともに、イラジェーションと言ってフイルム裏面で反射した光が再度乳剤を感光させるため、自然と星の明るさの差がわかりやすく表現されるのだ。ここで紹介しているプロソフトンシリーズはフイルムでの星の表現に似たぼかし効果が得られる。それゆえ、自然で好ましい描写のフィルターと感じられるのだ。

比較作例

共通データ NIKON D810A + SAMYANG 35mm F1.4 AS UMC 絞りF2 露光8秒 ISO2000(フィルターなしのみ1600) WB:オート Skymemo S使用

プロソフトンシリーズを使う場合、ほとんどのケースでスターリーナイトと同時に使う。そこで、ここでは全くフィルターをつけない場合から始めて、スターリーナイト、そこにさらにプロソフトンシリーズを重ねて使う場合を見てみることにする。ここでも可能ならダウンロードして見てほしい。

撮影は山梨県明野村から南アルプスに沈んでゆくオリオン座を中心とした冬の星座群だ。

フィルター未使用 フィルター未使用

オリオン座近辺は1等星が多く肉眼では華やかな夜空に見えるがフィルターなしでは寂しい印象だ。画面中心に赤い星雲(オリオン大星雲)がよく写っているがこれはD810Aの特性による。D810Aは天文用とされ赤い星雲がよく写るのだ。

スターリーナイト

フィルター未使用 スターリーナイト使用
フィルター未使用スターリーナイト使用

スターリーナイトを取り付けた。星空が地味な印象は①と変わらないが、画面下右の水銀灯、左下のナトリウムランプによる光害が抑えられて夜空の色合いとコントラストが良くなっている。特にナトリウムランプの黄色い色合いがよく抑えられている。

スターリーナイト + PRO1D プロソフトン[A](W)

スターリーナイトのみ スターリーナイト + PRO1D プロソフトン[A](W)
スターリーナイトのみスターリーナイト + PRO1D プロソフトン[A](W)

スターリーナイトに加えてPRO1D プロソフトン[A](W)を取り付けた。1等星、2等星がよく目立ち夜空が華やかになった。一方、街明かりも大きくボケてスッキリしない印象だ。

スターリーナイト + PRO1D プロソフトンクリア(W)

スターリーナイトのみ スターリーナイト + PRO1D プロソフトンクリア(W)
スターリーナイトのみスターリーナイト + PRO1D プロソフトンクリア(W)

スターリーナイトに加えてPRO1D プロソフトンクリア(W)を取り付けた。ぼかし効果はPRO1D プロソフトン[A](W)よりも弱まり、星空は肉眼で見た印象に近い。地上の街灯のボケも弱まるので、星景写真として好ましいバランスである。拡大するとわかるが、シルエットになっている手前の木々もシャープに見えている。

スターリーナイト + PRO1D R-トゥインクル・スター6X(W)

スターリーナイトのみ スターリーナイト + PRO1D R-トゥインクル・スター6X(W)
スターリーナイトのみスターリーナイト + PRO1D R-トゥインクル・スター6X(W)

スターリーナイトに加えてR・トゥインクル・スター(W)6Xを取り付けた。6本の光条が出るタイプだ。ソフト効果に加えて輝点から6本の光条がでており、F8やF11に絞った時の効果のように見える。

以上のような違いが生まれた。使い方としては

  • 地上が山波などシンプルな風景の場合 → PRO1D プロソフトン[A](W)
  • 地上に街灯がある場合 → PRO1D プロソフトンクリア(W)
  • 木々や岩肌など地上のディテールを活かしたい場合 → PRO1D プロソフトンクリア(W)
  • 組写真などで変化をつけたい場合などは → PRO1D R-トゥインクル・スター(W)

と使い分けるといいだろう。

プロソフトンクリアとスターリーナイトが一枚に

星景写真の定番フィルターといえば、プロソフトンクリアとスターリーナイトだ。プロソフトンクリアでは星に滲みを与えて星を目立たせ星座をわかりやすくする効果、スターリーナイトでは都市照明による光害を抑えつつ夜空の色調を整える効果である。どちらもその効果は有用で星景写真ユーザーの多くが必須フィルターとして愛用している。そして今回、この二つのフィルターを一つにまとめたスターリーナイトプロソフトンが登場した。

つまるところ、2つの機能を1枚のフィルターにまとめたものであるが、これまで星の強調と光害抑制・色調補正を行うためには2枚のフィルターを重ねる必要があったのだが、それが1枚のフィルターを装着するだけで良くなったのだ。言葉にすると大きな変化ではないように聞こえてしまうが、実態はそうではない。まずメリットは3つ。

スターリーナイトパッケージ プロソフトンパッケージ = スターリーナイトプロソフトンパッケージ

2枚が1枚になることのメリット

1 不要なゴーストやフレアを生まない
これまでのプロソフトンクリアもスターリーナイトもしっかりとコーティングがなされ、ゴーストやフレアは少なかったが2枚重ねで使用する際には、ゴーストやフレアが生まれることもあった。1枚で使用できるスターリーナイトプロソフトンではゴーストやフレアを心配することなく常にクリアな画像を得ることができる。
2 超広角レンズを使ったときのケラレが少ない
フィルターを2枚重ねると、その分フィルター枠が厚くなる。そのため20ミリ以下の超広角レンズでは四隅にケラレによる黒い影が発生してしまうことがあった。1枚であれば多くのレンズでケラレのない、あるいは少ない写真を撮ることができる。
3 フィルター固着の心配がない
フィルターを2枚重ねると、フィルター同士が固着して外れなくなってしまうことがよくある。夜間に行う星景写真ではこのことが大変なストレスであったが、その心配がないことは取り扱い上のメリットである。

比較作例

スターリープロソフトンの使用・未使用の比較をいくつかのパターンで行った。撮影はRAWデータで行ったがRAW現像時に露光量のみを調整して夜空の明るさを揃えたのみで他の調整は行っていない。

さそり座・いて座と都市夜景

フィルター未使用 スターリーナイトプロソフトン使用
フィルター未使用スターリーナイトプロソフトン使用

共通データ カメラ:ソニーFX-3 レンズ:SAMYANG AF 24mm F1.8 絞りf2.2 露光時間:15秒 ISO:1250 WB:太陽光 Skymemo Wi-Fiで恒星時追尾

スターリープロソフトンを使用すると2等星程度以上の明るい星が強調されるので、さそり座の形が分かりやすくなっている。肉眼ではさそり座がはっきりと見えていたので、印象が近くなる。また光害の影響が抑えられて正面の山並みがはっきりとし、天の川のコントラストも良くなった。山並みの印象は肉眼に近く、天の川は肉眼よりやや良く見えている印象だ。

オリオン座と月明

フィルター未使用 スターリーナイトプロソフトン使用
フィルター未使用スターリーナイトプロソフトン使用

共通データ カメラ:ニコンZ7 レンズ:SAMYANG 35mm F1.4 ASFERICAL IF   絞りf2 ISO:1250 WB:太陽光 Skymemo Wi-Fiで恒星時追尾

画面右上に月を配置し、ゴーストやフレアを生じやすいフレーミングとした。月齢は8.2。スターリープロソフトンを使用しても目立ったゴーストやフレアは発生せずクリアな視界となった。また色合いも月夜らしく良い印象となっている。手前の枯れ草のボケ感はやや増えているが自然な距離変化の印象でありながら、奥に一本立った樹木は十分なシャープさで描写された。星の強調のみならず、描写全般が好印象で魅力的だ。このカットでは露光時間を変えて露光倍数の補正を行った。スターリープロソフトン未使用は8秒、スターリープロソフトン使用では10秒の露光である。

富士山と夏の大三角

フィルター未使用 スターリーナイトプロソフトン使用
フィルター未使用スターリーナイトプロソフトン使用

共通データ カメラ:ソニーFX-3 レンズ:SAMYANG AF 18mm F2.8   絞りf2.8 ISO:3200 WB:オート

Skymemo Wi-Fiで恒星時追尾このカットでは露光時間を変えて露光倍数の補正を行った。スターリープロソフトン未使用は13秒、スターリープロソフトン使用では15秒の露光である。

超広角と言える18ミリでの撮影である。この場合、フィルターを二枚重ねにすると四隅にフィルター枠によるケラレが発生してしまいがちだが、スターリープロソフトンでは1枚の使用で済むので、ケラレが発生しなかった点が良い。光害の少ない環境ではWBをオートにすると、使用・未使用で夜空の色合いに違いが生まれにくいが、天の川のコントラストが向上していることがわかる。WBについてはカメラの特性や撮影地の光害となる光源の種類、薄雲の有無で色合いが変わる。RAWデータの撮影であっても、太陽光(晴天)のほかオートを試すなど複数のWB設定で撮っておき、より好ましかった方を選ぶと良い。

まとめ

以上の作例からフィルター2枚が1枚になることのメリットは大きく、すでにプロソフトンやスターリーナイトを愛用しているユーザーにもおすすめだ。今回は使用作例がないが、グラデーションフィルターやPLフィルターを併用したい場合もある。そうした場合にも有用で、スターリープロソフトンは表現の幅を広げてくれるフィルターなのである。

プロソフトンシリーズ使い分けのコツ

前項でもフィルターの使い分けに触れたが、ここでも少し触れておこう。

それは星空の方向、もしくは季節による使い分けだ。夜空には21個の1等星(それ以上を含む)があるが、大半が夏の夜空と冬の夜空、そして北天以外に集まっている。これまで作例で見てきた通りPRO1D プロソフトン[A](W)はぼかし効果が比較的強く、PRO1D プロソフトンクリア(W)はぼかし効果が弱い。

夏と冬の夜空にはPRO1D プロソフトンクリア(W)、春、秋の夜空と北天にはPRO1D プロソフトン[A](W)と使い分けるのだ。すると組写真など複数の作品を組み合わせるときにも、夜空に統一感が出るのだ。

スターリーナイト+PRO1D プロソフトン[A](W)スターリーナイト+PRO1D プロソフトン[A](W)

上の作例ではスターリーナイトに加えてPRO1D プロソフトン[A](W)を取り付けた。北天にあり、かつ秋の星座の代表格と言えるカシオペア座を中心にフレーミングした。この画角では1等星はなく寂しい印象になりがちな空域と言えるが、フィルターを使用することではっきりとカシオペア座がわかり、また星の色合いの違いもわかる。

スターリーナイト+PRO1D プロソフトンクリア(W)スターリーナイト+PRO1D プロソフトンクリア(W)

こちらはスターリーナイトとPRO1D プロソフトンクリア(W)との組み合わせで撮影。こちらはやや地味な印象で、より肉眼の印象に近い。どちらが良いかはそれぞれ各人の好みでありどちらが正解ということはない。

だが前項の「スターリーナイト + PRO1D プロソフトンクリア(W)」の写真とも改めて比較してほしい。すると星空によっては「PRO1D プロソフトン[A](W)」と「PRO1D プロソフトンクリア(W)」のどちらも自然な組み合わせと感じられるはずだ。このように、撮りたい星座や方角によってソフト効果の強弱を変えるのも一つの表現方法であるのだと覚えておいてほしい。

ハーフフィルターという選択

風景はシャープなまま星だけをにじませる、星景写真に最適な角型フィルター 製品情報を見る

ここまで、星景写真用フィルターであるスターリーナイトとプロソフトンシリーズの効果を見てもらい、それらが如何に星景写真に有用であるかを感じてもらったことと思う。

さて、ここで日本国内で星景写真を撮る場所について考えて見たいと思う。いうまでもなく、日本は国土も狭く人口密度も高い。それゆえ、星景写真を撮ろうと思うと人工の灯が画面に入らない場所がほとんど無いと思わないだろうか。それならば、いっそ人工の明かりを活かした星景写真を撮ってはどうかと筆者は考えるのである。すると、画面に大きく街明かりを配置する場合、ぼかし効果の弱いPRO1D プロソフトンクリア(W)でさえ、ぼかし効果が強いと感じてしまうのである。そこで一つの解決策はハーフフィルターの活用である。

ハーフプロソフトン(A)

念の為、ご存知ない方のために説明をしておくと、ハーフフィルターは長方形の板硝子の半分にフィルター効果を付加し、残りの半分を素通しとしたものだ。これをフィルターホルダーに挟み込みレンズに取り付けると、画面の半分にフィルター効果、残り半分にフィルター効果なしとすることができるのだ。フィルターはスライドして動かすことができるので、効果をかける割合を変更する事ができるのだ。

そんなハーフフィルターの中でも、もちろんPRO1D プロソフトン[A](W)と同等のハーフフィルター、「ハーフプロソフトン(A)」も発売されているので星空にはPRO1D プロソフトン[A](W)と同等のぼかし効果、地上にはぼかし効果なしとする事ができるのだ。

PRO1D プロソフトン[A](W) ハーフプロソフトン(A) 星空にのみぼかし効果
PRO1D プロソフトン[A](W)ハーフプロソフトン(A) 星空にのみぼかし効果

欠点は高価となってしまう点だ。フィルターホルダーは安価なものもあるが、使い勝手の良いものは高価であるし、フィルターそのものが大型である点から、レンズにねじ込む通常の円形フィルターより随分と高価になってしまうのだ。とはいえ、これに代わるものが無いというのが正直なところだ。

例えば画面内の部分的な明るさや色合いの変更はRAW現像時のグラデーションフィルターでも同様の効果を作ることができる。しかし、PRO1D プロソフトン[A](W)による星の強調効果は、RAW現像では作り出せないものなのである。導入はこれらの点を鑑み、ご自身の行いたい表現と合わせてよく精査してほしい。だが、ハーフプロソフトン(A)の効果は代用の方法はなく、価値の高いものであることは明言しておく。

フィルターと赤道儀を使った作例集

最後に

これで本連載は終了となる。第1回の冒頭に述べた通り、本連載は初めてカメラを持った人のためというよりは、すでに写真を趣味としており、星景写真にその撮影範囲を広げたいと思っている読者を想定して執筆した。3回の連載で星景写真を始めるにあたっての機材と情報を全て網羅したがゆえに、全てを一気に取り入れようとすると、難しく、かつ金銭的にもハードルの高いものとなってしまう。

冒頭に述べた通り、カメラと三脚だけあれば星景写真は始められる。それで星景写真をまず撮ってみて、もう少し、あるいはもっと違う表現をしたいと思った時に、改めて本稿を見直してもらえれば幸いだ。実体験を経た後で読み返してもらった方が理解が深まると確信している。また、もしも東京近郊にお住まいであるなら、ぜひ一度ケンコー・トキナー直営店を訪ねて見てほしい。本連載で紹介した機材をワンストップで揃えることも可能であるし、また何より目的と予算に合わせた的確なアドバイスをもらえるからだ。

そして本当に最後に。星景写真は当然の如く、夜更かしと睡眠不足を招く。何より健康に注意して星景写真を楽しんでほしい。読者の皆さんの健康を願って筆をおくこととする。