第4回 星景写真撮影で大事な星空の知識

第4回 星景写真撮影で大事な星空の知識

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星景写真撮影をより楽しむために

第1回、第2回、第3回と星景写真について触れてきた本特集記事もいよいよ最終回となりました。ここまでご紹介してきた内容は、星景写真撮影に必要な機材や撮影テクニックでしたが、最後にご紹介をするのは、星景写真をより楽しむために必要な星空の知識です。

星景写真撮影は「月齢(げつれい)」を知ることから始まる

いきなりですが、満天の星空を頭の中でイメージしてくださいと言ったら、皆さんはどんな夜空をイメージするでしょうか。おそらく、漆黒の空に星たちがキラキラと輝いている、プラネタリウムのような空を思い浮かべた方が多いのではないかと思います。その空に無いもの。それは「月」の存在です。

作例写真:月明かりがない満天の星空

月明かりがない満天の星空

星景写真撮影において「月」というものは、星の存在を消してしまう邪魔者になる時もあれば、地上風景を照らしてくれる光源になってくれる時もある、2つの側面を持っています。

作例写真:月明かりに照らされる地上風景

月明かりに照らされる地上風景

ここで大事なのは、自分が撮影したい星景写真のイメージに合った月齢を理解して撮影日を選ぶ、ということなのです。

例えば、私が「秋の西の空に沈む夏の大三角形と山の稜線」を撮りたいと考えたとします。この時、私が次に考えることは、山の稜線をシルエットにするか、それとも明るく撮るかという2つの選択肢です。実はこの問いに答えはなく、ある意味どちらも正解の星景写真になりますが、山の稜線は明るく撮影したいと考えると、自ずと月明かりが必要ということになってきます。

2018年9月のカレンダー

2018年9月のカレンダー

例えば、2018年9月に撮影するとしましょう。初めに考えることは、西の空に沈む夏の大三角形は何時頃撮影することができるのか、ということです。星座早見盤などを用いて調べると、9月の場合は、おおよそ夜中の1時ごろが撮影の時間帯ということがわかります。(関東甲信越の場合。緯度によって時間は多少前後します)

次に考えるのが月の存在です。夜中の1時頃に西の空を撮影することになりますので、その方向に月があっては意味がありません。そのため、夜中の1時頃に月が写真に干渉しない位置、つまりは東から南東の方角にある日を選ぶということになります。そうすると撮影候補日は以下の黄色く塗りつぶしてある日となります。

2018年9月のカレンダー(撮影日チョイス後)

2018年9月のカレンダー(撮影日チョイス後)

この中から自分のスケジュールと照らし合わせて撮影できそうな日を絞り込んでくというのが月明かりを意識した星景写真撮影の一連の流れになります。

作例写真:月明かりに照らされた八ヶ岳稜線の写真

月明かりに照らされた八ヶ岳稜線の写真

以上の条件が整い、天気が味方につけば、イメージに近い星景写真を撮影することができるようになってきます。

年間を通して楽しむことができるのが星景写真

星景写真を撮影するのにベストなシーズンはいつの季節でしょうかという質問をした場合、皆さんはいつの季節を思い浮かべるでしょうか。ある人は、空が澄んでいるからという理由で冬を選ぶかもしれません。またある人は、夏の天の川を撮りたいからという理由で夏と答えるかもしれません。この問いについて考えると、これまた正解はありません。実は、一年中を通して楽しめるのが星景写真の魅力なのです。

例えば春の季節を思い浮かべてみましょう。山々は雪解けが始まり、春の山菜が目を出し始めます。また、菜の花が咲き、桜が咲き乱れる。そんなイメージを思い浮かべた方が多いのではないでしょうか。そんな春の季節。実はこの季節しか撮れない星景写真があります。それは、地平線から昇る天の川です。

作例写真:地平線から昇る天の川の写真

地平線から昇る天の川の写真

天の川といえば、夏の季節を思い浮かべる方が多いかと思いますが、夏に天の川を撮影しようとすると、空が暗くなる20時以降に撮影をすることになります。この時間、夏の天の川はすでに南の空まで傾いていて、写真を撮るとすでに起き上がっている状態でしか撮影をすることができません。

作例写真:南中している夏の天の川

南中している夏の天の川

つまり、さそり座のあたりから夏の大三角形まで、地上風景と共に夏の天の川を広く撮影しようとすると、実はオススメの季節は春の夜ということになるのです。

この季節のズレは天の川に限ったことではありません。地上風景にあるものと撮りたい星空を絡めようと考えた時、その星空が地上風景と一緒に収められる時期はいつなんだろうと、もう一度ちゃんと考えてみるということが大事になってくることを覚えておいてください。そうすれば、年間を通して撮っていくものが決まってきます。

先ずは身の回りで撮れるものから楽しもう

星景写真は空が暗いところまで行って撮らなければいけないものと考えている方が非常に多いですが、決してそんなことはありません。

私たちにとって身近な星といえば、おそらく「月」だと思います。冒頭で、光源としての月について触れましたが、被写体として月を撮ったものも立派な星景写真と言えるでしょう。

作例写真:月の星景写真

月の星景写真

月は都会でも郊外でもどこでも撮影をすることができますので、最初に取り組む被写体としては最適かと思いますが、大事な撮影ポイントがあります。それは

  1. 月を撮影する時間
  2. 月の高度

この2点です。

月は非常に明るい天体のため、夜に撮影しようとすると、地上風景との露出差が激しすぎて基本的には白く飛んでしまいます。

作例写真:白く飛んだ月の写真

白く飛んだ月の写真

失敗例とまでは言いませんが、これではあまり美しい星景写真と言えません。こういった写真で、月を白く飛ばさず、かつ地上風景も綺麗に撮るためには、撮影する時間をより早める必要があります。空が完全に暗くなる前に撮影をすることで、両方をいいとこ取りした写真を撮ることができるのです。

作例写真:月のクレーターと地上風景が両方綺麗に撮れている写真

月のクレーターと地上風景が両方綺麗に撮れている写真

ポイントは、日が沈んだ後、30分後までを目安に撮影をすることです。この時間は航海薄明(こうかいはくめい)と言われていて、1等星〜2等星までの明るい星が見え始めた頃を指します。月と一緒に撮影をしたい被写体があったとして、画角の中に月が収まる時間が日没後30分までの間に訪れる日というのを選べば、より印象的な星景写真を撮影することができるでしょう。

さらに月の高度も重要になってきます。月が低い位置にある時は、月の明るさが暗いため、シャッタースピードを長くして撮影しても白く飛ばさず撮ることができます。ただし、地平線近くの月がクリアに見える時がなかなかないため、条件的には少し難しいでしょう。空が晴れ渡っている天気が良い日があればぜひトライしてもらいたい星景写真と言えます。

作例写真:登り始めの月の星景写真

登り始めの月の星景写真

まとめ

全4回でお送りしてきました星景写真の特集、いかがでしたでしょうか。星空の撮影は難しいと思われがちですが、ポイントさえ押さえればどなたでも楽しんでいただくことができる被写体です。ぜひこの記事をきっかけに、まずは身の回りで撮れるものから始めていただければと思います。

今から始める星景写真!プロが教えるキホン 記事一覧

北山輝泰

北山輝泰

皆様、初めまして。この度、星景写真についての記事を執筆させていただくことになりました、写真家の北山輝泰( きたやまてるやす )と申します。
専門は星空の写真です。星景写真や星座写真を中心に、国内はもちろん、年に数回、海外に行って撮影もしています。写真を撮ることも好きですが、星空の神話や星の名前の由来などを調べたり、プラネタリウムや科学館を巡るのも好きです。
また、NIGHT PHOTO TOURSという団体を立ち上げ、夜をテーマにしたワークショップを企画し、運営しております。ご興味がございましたらぜひお問い合わせいただければと思います。